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潜水艦狩り!

 聴音室から報告が入る。


「こちら聴音室。本艦左舷方向に潜水艦の推進器音らしきものを捕らえました。」


 伝声管から聴音手である朴中士(軍曹に相当)の声がした。


「詳しい方位、敵速はわかるか?」


 すかさず永島は伝声管に向かって聞きかえした。


「まだ無理です。遠いのか、そこまではわかりません。」


「了解、そのまま聴音を続けよ。」


 聴音室との会話を終わらせると、すぐに彼は命令を出す。


「信号兵!「蒼洋」に信号、向こうも発見できたか問い合わせろ!それと、敵の魚雷攻撃に警戒しろ。」


 ただちに発光信号で「蒼洋」と連絡がなされ、さらに見張りの兵隊たちは警戒をより厳重にする。


 一方、沢村はそれに対し少し不満そうだ。


「船長。敵潜水艦の方位はだいだいわかっているのですから、近づいて撃破した方が良くありませんか?」


 積極的な攻勢を進言する。しかし、永島は首を振った。


「あの程度の情報で仕掛けてはこちらが喰われる可能性もある。向こうは潜望鏡を上げてこちらの位置を掴んでいるかもしれない。対しこちらがおおまかな位置しかわからんようでは話にならん。敵を早急に撃滅するべきだろうが、不用意に手を出すのも危険だ。しばし辛抱したまえ。」


「わかりました。」


 沢村は不満そうにしながらも、一応は納得した。彼は確かに積極的ではあるが、馬鹿ではない。論理的に説明されれば一応は納得する。この点、永島は彼の性格をありがたく思っていた。


 その間に、「蒼洋」が報告を返してきた。


「「蒼洋」より信号。我が艦の聴音も敵推進器らしき物を捕捉。しかし、詳細は不明。とのことです。」


 残念ながら「蒼洋」も敵の存在は捉えたが、相手の具体的な情報を拾うまでには至っていなかった。


 しかし、潜水艦の水中速力は10ノット以下である。対し、2隻は15ノットで走っているから、見つけられるのも時間の問題と永島は考えていた。


 ちなみに、最高速力までスピードを上げないのは、エンジンの騒音を上げることで聴音器の効率を悪くすることを恐れたからである。そしてもう一つの理由もあった。


 しかし、敵潜水艦は水中での停止を行ったりしているのか、その後は中々尻尾を捕まえることが出来ない。


 時間がどんどん過ぎていく。


「まずいな。」


 永島が時計を見ながら呟いた。


 彼が時間を気にするのは、2隻の燃料の問題だった。実は2隻とも翌日に港に戻る予定だったので燃料があまり心もとない。戦闘を開始すると燃料を一気に消費する可能性があるからなるべく余裕を持ちたい。


 永島は潜水艦の水中行動能力の低さから、相手が直ぐに尻尾を出すと考えていた。しかし、相手は運が良いのか中々見つからない。

 

 と、ここで沢村が意見具申をする。


「船長。今回積み込んだ新兵器を試してみますか?」


「対潜砲をか?」


 この時期、まだ各海軍には水中の潜水艦を攻撃する前方攻撃型の兵器は無かった。後に連合国はスキッドやヘッジホッグを採用して大きな効果を上げた。


 永島は対潜戦を研究し、前方攻撃兵器を開発する必要性があると感じていた。


 そこで、艦隊上層部に意見具申したわけだが、何分未知の領域にある兵器だから上層部も困った。一応研究を開始したが、永島は黄海での対潜戦が始まると早急な配備を望んだ。そこで、簡便に取り扱えて、重量も軽い迫撃砲を積み込んでみた。


 対潜砲は迫撃砲そのままで、砲座が完全固定型で砲身が180度回る以外は陸軍の物と変わりない。


 永島はこれを無いよりマシと考えていた。射程が短く、おまけに深度調整が出来ないからだ。


 しかし、他に兵器が無い以上仕方ない。それにもしかしたら爆発音に相手が混乱を起こすかもしれない。永島は使用を許可した。


「対潜砲用意!!」


 すでに2名の砲員が発射準備を終わらせていた。


「目標は前方海上だ!狙う必要は無い。敵潜を炙り出せ。発射始め!」


 ポンッ!!


 通常の砲より遥かに軽い音と共に弾が発射される。


 続いて「蒼洋」も撃ち始めた。


 20発ほどを広範囲の方向にばら撒いてみた。しかし、何も変わらない。


「だめかな?」


 そう思い始めたとき、聴音室から報告が入った。


「艦長!敵は痺れを切らしたようです。全速で動き始めました。方位左舷2時方向、距離は900から1200程度!!」


「了解!!機関最大船速!後部爆雷戦用意!!水上砲戦用意!!」


 艦内が慌しくなった。


 だが、敵も黙ってはいなかった。


「2時方向に雷跡!!」


 敵は反撃に出た。


「回避運動!!」


 その魚雷は発見が早かったおかげで回避できた。


「ようし、お返しだ。爆雷調停深度30から60にセット!!」


 命令に従い、後部の爆雷班の兵士が深度をあわせる。そして、敵艦のいるとおとぼしき海域まで進み、永島は命令を下した。


「用意、撃てえ!!」


 投射機から爆雷が発射され、軌条から次々と爆雷が落とされる。


 数十秒後、何本もの水柱が出現した。


「やったか!?」


 沢村が窓に駆け寄る。


 これで、大量の燃料や浮遊物、乗員の死体などがあがったら撃沈確実である。


 しかし、中々その発見報告はこない。


「だめか?」


 しかし、すぐに見張りが叫んだ。


「敵潜浮上!!」


「!!」


 見ると、敵潜が鯨のごとく海上に出た。


「砲戦用意!!」


 8cm砲と40mm機銃が敵に照準を合わせた。だが、敵潜水艦から次々と乗員が脱出し始めた。どうやら艦には致命傷を与えれたようだ。


 そして、しばらくすると敵潜水艦は大きく傾き、最後はブクブクと黄海深く沈んでいった。


「やりましたよ船長!撃沈です!」


 その光景を見て、沢村が小躍りしながら喜ぶ。


 だが、永島は冷静だった。


「ああ。だが、その前にやるべきことがある。敵潜水艦の乗員を救助する。救助用意!カッター降ろし方用意!!」


 こうして戦いは終わった。永島は捕虜を戦いを終えた勇士として格別の待遇を行った


後に潜水艦の乗員の証言から、ソ連艦であることが判明した。この時期、スターリンの粛清が激しかったことから、乗員の半分、特に幹部は後に満州国に亡命申請した。


 彼らは永島の戦いと、人道的配慮を賞賛した。


 この功績により、3ヵ月後永島は駆逐艦艦長に栄転した。また沢村は「大洋」艦長に就任している。彼らはこの時の戦いから多くを学んだと、後に手記で記している。


 御意見・御感想お待ちしています。


 なお、この戦いで対潜砲を活躍させていますが、実際はあまり役に立たなかったと言われています。他に前方攻撃可能な兵器がなかったので、この作品では敢えて使っています。

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