あなたのために
あなたが好きだといったから、短かった髪を長くした。
あなたが好きだといったから、丸かった体をこれでもかって位細くした。
あなたが好きだといったから、下着が見えるくらい短いスカートをはいて、踵の高い靴を履いて、苦手なメイクだって覚えた。
全部あなたのためだった。あなたが好きだと言っていたから。
なのに、あなたの隣にいる笑顔がかわいい女の子。
あたしと真逆の女の子。
ふわふわとした洋服も、踵の低い靴も可愛らしい花が咲いたような笑顔も、全部全部あなたがエランダノ?
「あーあ。可愛そうな奴。」
語尾に音符でも付いているんじゃないかってくらい、弾んだ声でそいつが言った。
「あんな奴のために頑張って、ほぉんとみ・じ・め。」
ほんと、バカみたい・・・。鏡に映る私を見て呟いたそいつは、一粒の涙を流した。
「こんなに痩せて、まずは体重を戻さなくっちゃ。」
そいつは言った、鏡の中の自分を見て。鏡の中の自分を罵って、悔しそうに涙を流して、笑って言った。
頬を撫でるように鏡を撫でて、可愛そうな物を見るように鏡を見つめて。楽しそうに笑って言った。
「さてと・・・、おかーさーんご飯なにー?」
飛べない鳥は飛び立った。自分を縛る檻はもう無いのだと、明るい青空に目を輝かせて飛び立った。
この翼でも、飛べるのだと。