3、先輩と、オール
確か、先輩と仲良くなったきっかけは偶然だった気がする。
夏期講習も半ばでたまに話したりはしたものの少し壁を感じたりしていたのが、ある日を境に一変した。
いつものように4時過ぎに授業が終わり、私は少しのびすぎた髪をそろそろ美容院で切ってもらおうと山崎さんと一緒に池袋駅の方へ向かおうとしていた。(ひとりで美容院に行くのが心細かったのでついてきてもらった)
そのとき、たまたま子安さん、井坂君(私と山崎さんと同い年の男の子)、そして先輩も同じ方面に歩いていた。
「あれ?何この集団。ご飯でも食べに行くん?」
先輩が何気なく放ったこの一言がきっかけ。
私達は山崎さんを除いてみんな地方から東京に来ていたのもあり夜ご飯を皆で食べることは結構楽しいことであった。
「じゃあ駅の近くのサイゼ行こう」
ちょうどこの日は土曜で、次の日は予備校も休みだったので私達は遅い時間までわいわい騒ぐことができた。
ご飯もお腹いっぱい食べて、いっぱい喋って、ドリンクバーで遊んで、ただ楽しかった。
「俺、デザート食べたい」
先輩がそう言いだしたのは23時過ぎだっただろうか。
そろそろ解散かな、と思っていた矢先だったが正直夏期講習の間借りている自分のウィークリーマンションに帰っても寂しく寝るだけだったので、私自身はみんなといれられる時間がのびるのは嫌ではなかった。
迷い悩んだ末、先輩が選んだのはチョコレートケーキ。思えば私はこのケーキを食べていたときの先輩のあまりに幸せそうな顔に心惹かれたのかもしれない。それほどに可愛かったのだ。
ーやばい、きゅんきゅんした…。
そしてそれからまたわいわいしていると
気づけば0時を過ぎていた。
「やべえ山崎さんとか終電ねえぞ」
井坂君が笑いながら言う。
「どうしよう」
そう言いながらもそんなに不安げじゃない山崎さん。
「とりあえず、店出よっか」
会計を済ませ外へ出ると外はいかにも夜の街という感じだった。
八王子に住む山崎さんと江古田に部屋を借りている子安さんと先輩は電車、私と井坂君は予備校近くの同じマンション。
「んー…、山崎さん1人可哀想やし今日はみんなでカラオケ行こう!」
先輩は思っていたよりノリがいい人だったみたい。
みんなも案外ノリノリだった気がする。
ーオールでカラオケ…不良みたいだけどちょっと楽しい、かな。
そうして私達はカラオケ屋を探して夜の池袋を歩き始めたのだ。