どこかのいち光景
なんか消せないので大学時代の拙いものを……
「ふぅ…」
生徒会の会議室から出歩くと人気がなくなったところで、一志は思わず溜息をついた。
今年も、あの季節がやって来たのだ。一志の通う東陽中学はもう、一月もすれば学校祭が行われる。一志にとっては今年で三度目の学校祭になる。
普通に考えれば、中学生活の中では最後の大きなイベントで皆が楽しみにしている。
だが、一志にとってはそうでなかった。
どういったわけか、学校というのは不思議なところで、少々、勉強ができて人当たりがいい人間はたいていクラスの委員長にされる。
一志もそれに漏れず、東陽中に入った時からずっと委員長で同じみとなっている。
人前で喋るのは嫌いではないし、そのことに関しては別に嫌ではなかった。でも、この時期だけはちょっと憂鬱になる。
「松本くん?」
「町鳥さん、か。どうかした?」
一志の振り返った先にいたのは、同じく別クラスの委員長の町鳥だった。町鳥も一志と同じで三年の今までずっと委員長だ。不思議なことにクラスが一緒になったことはない。
一志はその度に思うのだが、一年の時に委員長になった人間は皆、その後のクラスはバラバラに分けられるようになっていて、先生たちのやりやすいようにしているのではないだろうか?
もしも、町鳥と同じクラスになれば、自分か町鳥のどちらかがやり、どちらかはその任から外れることになるだろう。
「ううん、別に」
町鳥はそう言うと一志に方に寄ってきて開いている窓からちょっと顔を出してグラウンドを眺めていた。
「元気だねぇ、野球部」
「もうじき、雪が降ったら外では練習できなくなるからなぁ。その分じゃないかな。それに今日は顧問の川村先生がいないんで、ハメ外してるらしいよ。大野が言ってた」
一志も窓の外の様子を眺める。数人が大きな声で笑い合いながら楽しそうに動いている。
まだ、雪の降る季節ではないといえ、野球のユニホームは少々寒いように思える。でもそんな感じはしない。運動もしているし、それほどでもないのだろうか? それとも一志の思っているよりユニホームは暖かいのだろうか?
「大野くんか。確か推薦で高校行くっー! って言ってたよね。いいなぁ」
「町鳥さんだって、成績はいいでしょ。志望校に入るには問題ないんじゃないの?」
「松本くん、それは余裕者の発言ですかな? 今回もテストで一桁番台にいるんでしょ。わたしなんてせいぜい二十番以内だよ」
「でも、前にわたしは北高かなとか言ってなかった? 北高ならそれで大丈夫じゃなかったっけ?」
びゅっと風が入ってきて教室の大きなカーテンが揺れる。それに合わせて町鳥の少し長めの髪が揺れる。町鳥はこちらを見ていた。
「それは、二年生の時だよー。今は、東に行きたいなって思ってるんだよね」
「そうなの?」
「そうだよ」
またカーテンが揺れる。髪も揺れるている。やっぱり外の空気は寒いと思う。
「ううっ、やっぱり寒いね。野球部は元気すぎるよ。帰ろっか?」
町鳥は窓をしめてから、自分の教室のほうに歩き出して止まった。
「そういえばさ、松本くんとはよく顔合わすけど同じクラスにはなれなかったよね」
「そうだね。同じクラスだったら、今年の学校祭は楽しかったかも知れない」
「きっと、楽しかったと思うよ」
町鳥はドアの付近で立ち止まったまま振り返らずに言う。
「また、顔合わせるのは、生徒会にクラスの出し物要請するときだね」
「そうだね」
言って、町鳥は教室に戻っていった。
廊下ですれ違うこともあるだろうけど、次に会うのは委員の集まりの時だろう。
やっぱり、そのことを考えると憂鬱になる。
窓越しにワァァァと大きな声が聞こえた。誰かがホームランを打ったみたいだ。