空色ベンチと白い猫(ショートストーリー)
僕はうんざりするほど快晴の日に捨てられた。空に浮かぶ雲が、ただ怠惰にふわふわとしていた。僕が捨てられてしまったときに覚えているのは、ひとつ女の子が僕を捨てたこと、それとその少女が「ごめんね」と言ったことだけ。幸いにこの公園は行き交う人々が多い。なおかつ食べものをくれることが多く、飢え死ぬということはなかったので、公園から出る必要はまったくなかった。けれども、ひとりぼっちなのは、お腹の飢えよりも何かしらの飢えを感じさせた。この公園には、以前は青いペンキで綺麗な塗装をされていたのであろうベンチと、シーソー、ブランコがあるだけだった。公園に捨てられてから幾回か、お天道様とお月様が追いかけっこをした。そして白昼夢のような出来事がおきたんだ。
僕がシーソーのうえで、白い毛並みを整えているときのことだった。どこからか声がきこえてきたのだ。
「おい、そこの白い猫、こっちへ来なさい」、そう確かに聞こえる。
僕は声の聞こえる方向へ足を運び、空色のベンチがある公園の隅へとたどり着いた。白猫はあたりを見渡したが、生き物の気配は全く無い。いよいよ白猫は恐くなってきたが、恐る恐る声を発した。
「どこにいるの?僕になんの用事があるの? 」と白猫が訊ねると、しばらくして空色のベンチから声が聞こえた。
「私だ、この空色のベンチだよ」。白猫は驚き、尻尾をピンとさせ、体毛をそびえたたせた。空色のベンチは白猫に問う。
「どうして君は、いつまでもひとりぼっちなんだい? 」。
白猫はすぐに応える。
「僕は少女に捨てられたんだ。仲間がひとりも居ないところにね」。
空色ベンチは白猫に言う。
「ひとりぼっちになったのは君のせいだね」。
白猫はそれを聞いてすぐに問い返した。
「どうして? 僕は捨てられたんだよ? 捨てられたせいで一人ぼっちなんだ。ひとりぼっちなのは、あの女の子のせいだ」。
空色ベンチは尋ねた。
「では、なぜこの公園から一歩もでないの? 」。
白猫は言葉に詰まった。公園の柱時計は15時を指した。相変わらず太陽は執拗に二人を照らす。空色ベンチは続けて言った。
「私はあなたがこの公園に捨てられてから、ずっと君を見てきた。確かにこの公園には食べ物を与えてくれる人々がいて、生きるという環境に不足はない。でも、ひとりぼっちを君はずっと人のせいにしているじゃないか。環境に甘んじて、君は一歩たりとも公園の外へ踏み出そうとしなかった。外にでて、本当の独りぼっちになってしまうのが恐いのか」。「なら、どうすればいいのさ」。
白猫が空色ベンチを見て、そう訊ねようとすると、ベンチは普段の色褪せた様子に戻っていた。白猫は訊ねたものの、自身ではすでに気づいていた。白猫は公園を出て、夕日の見える方向へと歩いていった。