ハーレムの暑い日々
その道のプロが書く書評には素人では気付かないような視点から読まれていることが多く、読む人にいろいろな『きずき』を与えているように思う。けれども、プロと素人では住む環境が違っていることが多く、同じ文を読んでもその受け取り方が違うこともある。
ときには、自分と同じような環境に暮らす人の見解を聞きたい衝動もあるが、なかなかそのような見解に巡り合う機会は少ない。周囲の人の見解を得ればその可能性は高まるけれど、そのような機会を得てもその人の推しの本に関する見解を聞く羽目になり、なかなか意中の書籍に関する見解にぶち当たることは少ない。
「私の書評など誰が求めているんだ」ということも認識しているが、誰かの参考になればと思い投稿てみることにした。今はインターネットが普及しているので、マイナーなものでも発掘される可能性はゼロではないと思う。偶然、この書評に出会った人が時間を無駄にすることなく小さなものでも得ることができれば幸いに思う。
私が小学生の頃に読んだ『ハーレの暑い日々』という本だある。ませた小学生だったと思う。あの頃は、何かとアメリカが話題になっていた。テレビでアメリカのテレビ・ドラマが放映されており、その映像に映るアメリカの裕福な暮らしに羨望と憧れを抱いていた。その一方で、頻繁にテレビ。ニュースでベトナム戦争の話題となり、日米安保反対を訴える学生運動の過激度を増していた。私が通う小学校の屋上からは、駒場の東大の建物から煙が上がるのが見え、父親が会社より帰宅すると「渋谷は真っ暗で歩道に敷き詰められたブロックがすべて取り除かれていた」と話している声を耳にした。学生が歩道のブロックを引き剥がし細かく割って投石することを未然に防ぐためである。そんなことから、アメリカに対する複雑なイメージは小学生の私の頭に渦巻いていた。
アメリ社会での白人による黒人への人種差別に対しても漠然とした理不尽な印象を抱いていており、『ハーレム』という地名もその人種差別の代名詞のような意味で認知していた。そんな日々の中、近所の本屋に立ち寄った。当時の小学生にとって本屋は、漫画を立ち読みする場所であり、遊んでいる時その遊びに飽きると暇潰しのように立ち寄っていた。道路に面した本屋の片隅にタバコを売るブースのような人一人が座れるような空間がある古びた店である。漫画には、それほど大きな興味がなかった私は、文庫本の本棚を眺めていた。そこの『ハーレム』の文字が目に飛び込んできたので興味を抱いたのがこの本である。
この本屋は家の近所の本屋で家に定期刊行の雑誌や取り寄せを頼んだ本などを配達してくれる。なので名前を告げ「ツケでお願いします」と言うと子供でもお金を腹わぜに本を買えた。試したことはないが、高価な本やいかがわしい内容の本は、断られたのかもしれない。
雑談はこの辺までとしておき本題に入ろう。
そんな訳で小学生の私は『ハーレムの暑い日々』という本に出会った。当然子供であった私は、大人である作者から知らない世界を見せてもらえることを期待しているのである。羨望の的であるアメリカという国の理不尽な部分として知っていた『ハーレム』とはどんな場所なのか知りたかった。
この本は、1950年代頃から始まる日本人女性のエッセイである。筆者は日本の放送局で黒人ジャズ・ミュージシャンと出会い、どうして黒人が差別される対象になっているのかという素朴な疑問から始まり、米国留学に至ることから始まる。コロンビア大学に転入し結婚、ハーレムの低所得者向けアパートに居を構える。このアパートで多くの黒人とそれらの黒人の生の生活と出会うことになる。それらの黒人には大人たちばかりではなく多くの子供たちも含まれている。また黒人が口のする食事や遊びなども描かれているが、ここでも黒人向けの差別食が鵜が枯れている。
当初、ジャーナリズム志望であったが、ハーレムの黒人を撮影して喜ばれた経験からフォトジャーナリズムのコースに変更する。そのため本には多くの写真が掲載されている。この頃の黒人は、白人より劣っていることを容認し白人を崇拝さえしていた。小学生の私が一番ショックだったのは、『アメリカ白人社会では黄色人種も差別の対象となるcoloredなんだ』ということだった。東京に住んでいたが、『差別』という意識を具体的に抱いたことはなく過ごしていたので、自分が『差別』の対象になっているとは考えもしていなかった。
その後は、多くの人が知っているように人種差別の撤廃を求めた公民権運動が起こり、大きく変貌していく黒人社会とそこに暮らす黒人達の描写に写っていく。
60代後半になってこの本を読み返してみた。当然のことながらこの本を書いたエッセストは、この本を書いた時点で年齢が止まっている。したがって、今や私よりかなり年下のエッセイストとなってしまった。そのエッセイストが、経済的な事情と若者独特の好奇心からハーレムに移り住み、彼女の天真爛漫な性格と好奇心が相まって子供を含む多くの黒人の友達を作っていく。その黒人達がアメリカ白人社会に疑問を持ちはじめ立ち上がっていく黒人社会の変化を鋭い感受性をもって描いた本である。そんな内容に一人の若者の怖いもの知らずで純粋な正義感を通して各人達の変化を描いた青春小説のような印象を受けた。




