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第1話 ルベルコルスの魔女

今まで書いていた『勇者に盾は必要か?』の改訂版です。

秋が一段と深まり、木々が枯れ葉を落とす季節。

一人の男が、中央都市サントゥスの外縁にそびえるトレディス山を目指し、馬車を走らせていた。


乾いた車輪の音が、静まり返った山道に虚しく響く。

男の目的は、その山の麓にひっそりと佇むクレミス村。そこに暮らすという、ある人物を訪ねるためだった。

――通称、『ルベルコルスの魔女』。

この広大な大陸において、彼女以上の占いをできる者はいないと謳われる存在。その眼は過去も未来も、世界の「全てを見通せる」とまで言われているのだ。


男が抱える問いへの答えを、その魔女は持っているのだろうか。

冷たい風が吹き抜ける中、男を乗せた馬車は、傾斜の増していく険しい山道の奥へと進んでいく。


馬車は険しい山道を抜け、ようやく目的のクレミス村の入り口へと辿り着いた。


滅多によそ者の来ない、山あいの寂れた村だ。見慣れぬ立派な馬車の登場に、まきを運んだり、仕留めた獲物を解体していた村人たちが一斉に鋭い視線を向けてくる。まもなく訪れるであろう早い冬に備え、山の資源を蓄える手を止めた彼らの目に明らかな警戒の色が混じるのは、独自の規律で生きる彼らにとしては当然の反応だった。張り詰めたピリピリとした沈黙が、入り口一帯を包み込む。


だが、御者台に座る男の御者も、馬車の中に佇む男にも、焦る様子は微塵もなかった。

数日前、主の命を受けた早馬がこの村へと馳せ参じ、しかるべき手順で書状を渡してあるはずなのだ。


やがて、集まりかけた村人たちの人だかりを割るようにして、村の奥から一人の老人が歩み出てきた。この地を統べる族長である。

老人の目は、馬車の豪華な装飾や馬の毛並みを、いやらしく値踏みするようにぎらぎらと見つめていた。


族長は男が馬車から降りるのを待つことすらせず、開口一番、品性の欠片もないしゃがれた声でこう言い放った。

「伝令の書状は確かに受け取った。で……お前さんはいくら払うんだ」


挨拶も、客人への敬意も何もない。ただ「金」だけを求める族長の言葉が、静まり返った村の入り口に響く。

あまりにも無礼な物言いに、馬車の扉を支えていた従者がカッと顔色を変え、抗議の声を上げようとした。


だが、それを遮るように、馬車の中から落ち着いた声が響く。

「それなりの代金は用意している」

低く、落ち着いた声とともに姿を現したのは、仕立ての良い上着をまとった男、アルベルト・サンマルコだった。


「ほう、流石は中央ギルド本部評議会メンバーの――アルベルト・サンマルコ様だ」

族長は嫌らしい笑みを浮かべ、あとについてくるようにと二人を案内した。


族長の家は村の中央に位置していた。

周囲の粗末な家屋とは明らかに一線を画す、頑丈で立派な構え。外見の立派さに違わず、家の中もまた、辺境の村には不釣り合いな調度品で飾られていた。他国の高価な絨毯や、きらびやかな銀細工。それらがすべて、大陸随一の占いの力によってもたらされた「戦利品」であることは明白だった。


族長はそんな成金趣味の広間を通り抜け、さらに奥にある、厚い扉に閉ざされた部屋へと二人を案内した。

そこは窓が固く閉ざされ、わずかな灯火だけが揺れる薄暗い部屋だった。


外界の喧騒から完全に切り離されたような、奇妙な静寂が満ちている。アルベルト・サンマルコが促されるままに部屋の椅子に腰掛けると、やがて部屋の奥から二人の女性が姿を現した。

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