選択
世界が、割れている。
もう「一つ」じゃない。
三つ。五つ。もっと。
同じ場所に、違う現実が重なっている。
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「……もう無理だ」
結衣が言う。
声が少しだけ震えている。
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レンは複数いる。
それぞれが違う“正しさ”を持っている。
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「どれが本物なんだよ」
思わず呟く。
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観測者の声。
「全部だよ」
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一拍。
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「でも全部は残せない」
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静か。
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空間がさらに軋む。
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レンたちが同時にこちらを見る。
違う未来の目で。
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「これがいい」
「いや、こっちだ」
「こっちの方が正しい」
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重なる声。
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結衣が小さく言う。
「これ、選ばないと終わるね」
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「ああ」
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でも選べない。
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全部、どこかで“正しい”。
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一歩前に出る。
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「決める」
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観測者が静かに言う。
「やっとだね」
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世界が止まる。
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レンたちの声が消える。
静寂。
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「一つだけ残す」
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結衣がこちらを見る。
「どうやって?」
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一拍。
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答えは単純じゃない。
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でも、ひとつだけある。
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「“選ばない世界”を選ぶ」
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結衣が目を見開く。
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「それって」
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うなずく。
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「どれか一つじゃなくて」
「全部を成立させる形にする」
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観測者が笑う。
「それ、一番難しいやつだよ」
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「知ってる」
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世界が揺れる。
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レンたちが一瞬静止する。
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そして――
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「統合する」
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一言。
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その瞬間。
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世界が一気に重なる。
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バラバラだった現実が、無理やり“重ねられる”。
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結衣が息をのむ。
「……これ、すごい」
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でも。
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まだ安定していない。
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歪んでいる。
軋んでいる。
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観測者が言う。
「統合はできる」
「でもね」
一拍。
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「“矛盾”は残る」
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沈黙。
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結衣がこちらを見る。
「これ、成功なの?」
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一瞬考える。
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答える。
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「まだ途中だ」
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世界は一つになった。
でも完全じゃない。
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“違う正しさ”が、まだ中に残っている。
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そしてそのとき。
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レンが一人、こちらを見て言う。
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「じゃあ、次は?」
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空気が止まる。
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一拍。
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静かに答える。
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「矛盾の処理だ」




