時間定義
空間が、わずかに流れている。
でも一定じゃない。
速くなったり、止まったり。
「……これ、気持ち悪いね」
結衣が言う。
「ああ」
同じ感覚だ。
“時間”はある。
でも、整ってない。
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「このままだと」
結衣が続ける。
「何も安定しない」
「だな」
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一歩、前に出る。
何もない空間。
でも、今は違う。
少しだけ“世界”になり始めている。
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「決めるぞ」
言う。
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結衣がうなずく。
「うん」
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深く息を吸う。
ここからは――
“適当”じゃダメだ。
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「時間は、一方向に進む」
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その瞬間。
空間が静かに整う。
流れが揃う。
止まらない。
戻らない。
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結衣が少し目を見開く。
「……今、揃った」
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まだ終わりじゃない。
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「速度も決める」
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少し考える。
そして言う。
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「時間は、一定速度で進む」
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空間がさらに安定する。
さっきまでの違和感が消える。
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「いい感じ」
結衣が笑う。
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でも。
まだ足りない。
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「干渉についても決める」
呟く。
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結衣が首をかしげる。
「干渉?」
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「ああ」
「時間を止めたり、戻したり」
一拍。
「そういうのは禁止」
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その瞬間。
空間が“固定”される。
揺れが完全に消える。
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「……強いね、それ」
結衣が言う。
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「じゃないと壊れる」
即答。
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ここは未定義。
何でもできる。
だからこそ――
制限が必要。
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観測者の気配が、少しだけ揺れる。
初めて。
“反応”した。
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「なるほどね」
遠くから声。
「ちゃんと“縛る”んだ」
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無視する。
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結衣が前を見る。
「これで、時間は完成?」
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一瞬考える。
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「いや」
首を振る。
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「“始まり”がいる」
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結衣が少し笑う。
「スタート地点?」
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「ああ」
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静かに言う。
「この瞬間を、時間の起点とする」
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一瞬。
世界が“確定”する。
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流れが一本になる。
過去はない。
未来だけがある。
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「……できた」
小さく呟く。
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結衣が深く息を吐く。
「なんか、やっと地に足ついた感じ」
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確かに。
さっきまでの“不安定”が消えている。
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でも。
まだ始まったばかりだ。
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観測者が小さく笑う。
「いいじゃん」
「ちゃんと世界っぽくなってきた」
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振り返らない。
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結衣が言う。
「次は?」
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即答。
「空間」
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時間はできた。
次は――
“どこに存在するか”。




