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世界は最適化される。だから俺は、全員を残す  作者:
最適化世界の観測記録
11/38

崩壊



 朝。


 教室。


 いつも通り。


 ――のはずだった。


 「……少ない」


 口に出る。


 人数が、合ってない。


 でも。


 誰も気にしていない。


 「おはよー」


 声。


 結衣。


 席に座る。


 いつも通り。


 「……なあ」


 「ん?」


 「今日、誰か休んでるか?」


 結衣は少し考えて、首を振る。


 「ううん、全員いるよ」


 即答。


 「……そうか」


 違う。


 絶対に、違う。


 でも。


 証明できない。


 黒板を見る。


 何も書かれていない。


 なのに。


 “ある”。


 『暫定状態:維持』


 見えている。


 はっきりと。


 「……動いてるな」


 小さく呟く。


 先送りは、止まっていない。


 ただ、積み上がっている。



 授業中。


 ノートを取る。


 ペンが、止まる。


 「……何ページだ」


 分からない。


 さっきまで書いていたはずなのに。


 ページが飛んでいる。


 周りを見る。


 誰も気にしていない。


 普通に進んでいる。


 「……ズレてる」


 小さく言う。


 時間が、繋がってない。


 連続していない。


 飛んでいる。


 「れん?」


 結衣。


 横から覗き込む。


 「大丈夫?」


 「ああ」


 即答。


 でも。


 大丈夫じゃない。


 結衣は少しだけ黙る。


 それから。


 「……そっか」


 それ以上は聞かない。


 聞けない。



 放課後。


 廊下。


 人が歩いている。


 でも。


 「……同じだ」


 同じ顔。


 同じ動き。


 同じ会話。


 繰り返している。


 少しだけズレながら。


 「なんだよ、これ」


 目をこする。


 戻らない。


 現実だ。


 黒板のせいだ。


 先送りした“答え”が。


 今、歪んで出ている。



 階段。


 一人、すれ違う。


 知らない顔。


 でも。


 見覚えがある。


 「……誰だよ」


 振り向く。


 いない。


 最初から、いなかったみたいに。


 「……くそ」


 確定していない。


 だから、存在も曖昧になる。



 教室に戻る。


 結衣がいる。


 窓際。


 外を見ている。


 「……おかしいだろ」


 近づく。


 結衣は振り向く。


 少しだけ笑う。


 「うん」


 あっさり。


 否定しない。


 「おかしいね」


 軽く言う。


 でも。


 その目は、静かだ。


 「……分かってたのか」


 「なんとなく」


 曖昧に返す。


 でも。


 知っている。


 「これさ」


 結衣が黒板を見る。


 何もない場所を。


 「止まってないよね」


 核心。


 「ああ」


 短く答える。


 「先送りしただけだ」


 結衣はうなずく。


 納得したみたいに。


 「じゃあさ」


 一歩、近づく。


 距離が近い。


 「どうするの?」


 逃げ場がない。


 「……決める」


 答える。


 迷いはない。


 「全部、残す」


 結衣は少し黙る。


 それから。


 小さく笑う。


 「そっか」


 それだけ。


 でも。


 どこか、安心している。



 その瞬間。


 世界が、歪む。


 音が、ズレる。


 光が、遅れる。


 「……来たな」


 黒板が、浮かぶ。


 『暫定状態:限界』


 下に、一行。


 『最終判定:開始』


 空気が、変わる。


 重くなる。


 逃げ場が、消える。


 「……今かよ」


 チョークを握る。


 まだ、書ける。


 でも。


 間に合うかは、分からない。


 「れん」


 結衣の声。


 振り向く。


 すぐ近く。


 手が届く距離。


 「時間、ないね」


 静かに言う。


 「ああ」


 うなずく。


 分かってる。


 ここで決まる。


 全部。


 「ねえ」


 一歩、近づく。


 結衣の顔が、近い。


 まっすぐ、見る。


 逃げられない。


 「もしさ」


 一瞬だけ、間。


 「どっちかしか残らなかったら」


 心臓が止まる。


 「……やめろ」


 言わせない。


 でも。


 結衣は止まらない。


 「どっち選ぶ?」


 静かに。


 でも、逃げ場なく。


 突きつける。


 「……選ばねえ」


 即答。


 「両方残す」


 結衣は少しだけ笑う。


 困ったみたいに。


 でも。


 どこか嬉しそうに。


 「うん」


 それだけ。


 否定しない。


 ただ。


 受け入れる。


 「じゃあさ」


 ほんの少し、声が柔らかくなる。


 「ちゃんと、終わらせてね」


 まえと同じ。


 でも、今は違う。


 “最後”の意味だ。


 「……ああ」


 答える。


 短く。


 でも、重く。


 黒板を見る。


 向こう側。


 観測者。


 全部。


 まとめて。


 「終わらせる」


 言い切る。


 その瞬間。


 世界が、崩れる。


 音が消える。


 光が割れる。


 形が、ほどける。


 教室が、消える。


 結衣が、消えかける。


 「……待て」


 手を伸ばす。


 届く。


 掴む。


 まだ、いる。


 「離すなよ」


 低く言う。


 結衣は少しだけ笑う。


 「うん」


 短く。


 それだけ。


 でも。


 分かってる。


 もう。


 限界だ。


 黒板が、最後に浮かぶ。


 『最終試行』


 すべてが、止まる。


 音も。


 光も。


 時間も。


 完全な静寂。


 「……ここか」


 チョークを握る。


 最後の一回。


 これで全部決まる。


 結衣を残すか。


 世界を残すか。


 「……選べるかよ」


 吐き捨てる。


 でも。


 逃げない。


 ここまで来たら。


 やることは、一つだ。


 「――全部、残す」


 黒板に向かう。


 チョークを当てる。


 書く。


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