病院での再会
消毒液の匂いと、低く唸るような空調の音。
病院の廊下にある硬いプラスチックの椅子に、日野蒼生は深く顔を埋めていた。
握りしめた拳が、小刻みに震えている。
脳裏に焼き付いているのは、夕暮れのアスファルトに散らばった、見慣れたスクールバッグと、短く切り揃えられた尊の髪が赤く染まっていく光景。
「……っそ、……ごめん、尊。あんなこと、本気じゃねえよ」
消え入りそうな声が、無機質な床に吸い込まれる。
「あんたなんか、顔も見たくない!」
そう叫んで駆け出した尊の背中を、なぜ追いかけなかったのか。なぜ、あんな些細な口喧嘩で、あんな酷い言葉を投げつけてしまったのか。
後悔が、どろりとした鉛のように胸を焦がす。
「……ねえ。そんなに地面睨んで、何探してんの?」
不意に、すぐ耳元で声がした。
聞き間違えるはずのない、少しハスキーで、いつも自信に満ちたあの声。
蒼生は弾かれたように顔を上げた。
「み、こと……?」
そこには、尊が立っていた。
怪我一つない制服姿で、腰に手を当て、呆れたように蒼生を見下ろしている。
「よかった、無事だったん……か……?」
蒼生の言葉が、喉の奥で凍りついた。
目の前に立つ尊の姿は、背後の掲示板が透けて見えるほどに、淡く、頼りなく揺らめいていたからだ。
「無事かって聞かれると、ちょっと微妙かな。あっちで寝てる私、なんか機械いっぱい繋がれてて、正直かなりブサイクだったし」
尊は親指で、集中治療室の扉を指差した。
その顔はいつも通り不敵に笑っているけれど、蒼生を見つめる瞳には、隠しきれない不安が滲んでいる。
「……なんだよ、それ。幽霊にでもなったってのかよ」
「さあね。気づいたらあんたの横にいたの。謝るなら今だよ、蒼生」
蒼生は立ち上がり、思わずその肩を掴もうと手を伸ばした。
けれど。
「え……」
蒼生の手は、確かな手応えを何一つ残さず、冷たい空気だけを掴んで尊の体を通り抜けた。
「あはは、やっぱりダメか。……ねえ、蒼生」
尊は、空を切った蒼生の手を悲しそうに見つめたあと、いたずらっぽく笑ってみせた。
「しばらく、あんたの家に泊めてよ。病院のベッド、硬くて腰が痛くなりそうなんだもん」
窓の外では、残酷なほど綺麗な月が、透き通った彼女の姿を静かに照らしていた。




