表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月に透ける君と語らう  作者: 輝久実


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/6

病院での再会

消毒液の匂いと、低く唸るような空調の音。


病院の廊下にある硬いプラスチックの椅子に、日野蒼生は深く顔を埋めていた。


握りしめた拳が、小刻みに震えている。


脳裏に焼き付いているのは、夕暮れのアスファルトに散らばった、見慣れたスクールバッグと、短く切り揃えられた尊の髪が赤く染まっていく光景。


「……っそ、……ごめん、尊。あんなこと、本気じゃねえよ」


消え入りそうな声が、無機質な床に吸い込まれる。


「あんたなんか、顔も見たくない!」


そう叫んで駆け出した尊の背中を、なぜ追いかけなかったのか。なぜ、あんな些細な口喧嘩で、あんな酷い言葉を投げつけてしまったのか。


後悔が、どろりとした鉛のように胸を焦がす。


「……ねえ。そんなに地面睨んで、何探してんの?」


不意に、すぐ耳元で声がした。


聞き間違えるはずのない、少しハスキーで、いつも自信に満ちたあの声。


蒼生は弾かれたように顔を上げた。


「み、こと……?」


そこには、尊が立っていた。


怪我一つない制服姿で、腰に手を当て、呆れたように蒼生を見下ろしている。


「よかった、無事だったん……か……?」


蒼生の言葉が、喉の奥で凍りついた。


目の前に立つ尊の姿は、背後の掲示板が透けて見えるほどに、淡く、頼りなく揺らめいていたからだ。


「無事かって聞かれると、ちょっと微妙かな。あっちで寝てる私、なんか機械いっぱい繋がれてて、正直かなりブサイクだったし」


尊は親指で、集中治療室の扉を指差した。


その顔はいつも通り不敵に笑っているけれど、蒼生を見つめる瞳には、隠しきれない不安が滲んでいる。


「……なんだよ、それ。幽霊にでもなったってのかよ」


「さあね。気づいたらあんたの横にいたの。謝るなら今だよ、蒼生」


蒼生は立ち上がり、思わずその肩を掴もうと手を伸ばした。


けれど。


「え……」


蒼生の手は、確かな手応えを何一つ残さず、冷たい空気だけを掴んで尊の体を通り抜けた。


「あはは、やっぱりダメか。……ねえ、蒼生」


尊は、空を切った蒼生の手を悲しそうに見つめたあと、いたずらっぽく笑ってみせた。


「しばらく、あんたの家に泊めてよ。病院のベッド、硬くて腰が痛くなりそうなんだもん」


窓の外では、残酷なほど綺麗な月が、透き通った彼女の姿を静かに照らしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ