第8話『二人きりの実験 ― 触れそうで触れない距離』
授業の終わった放課後。
あかりは、さっきの“光る輪郭”のことで落ち着かず、僕を袖で引っ張った。
「ゆうと……話したい。
ちょっと来て……」
その声音は、不安なのに、どこか甘い。
僕の理性がすでにザワつき始める。
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ふたりだけの教室で
放課後の教室。
夕陽が差し込み、影が長く伸びる。
他の生徒はもう帰り、静かだ。
「さっきの……なんか、私だけ変だったよね?」
「あ、ああ……まあ……その……」
(正直、あかりだけ“発光パルス”みたいになってて超やばかった……
てか今も脳裏に焼き付いてる……理性よ戻れ……戻れぇ……)
「あのさ……悠斗の“輪郭視”、私に向けると……どうなるの?」
あかりが机に腰掛け、僕の目を真っ直ぐ見る。
霧が晴れかけていた瞳の印象がよみがえり、僕は思わずドキッとする。
喉が鳴った。
「ちょ……今、試すの……?」
「他にいつ試すの?」
にっこりと笑う。
幼なじみ特有の、僕の心の急所をつく笑顔だ。
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輪郭視、起動
息を吸う。
意識を集中させる。
輪郭の線を“強調する感覚”を呼び起こす。
――瞬間。
あかりの輪郭が光った。
薄い金色の、脈打つ光。
(やっぱり……他と全然違う……)
「あ……あたし、なんか……あったかい……」
あかりの頬がみるみる赤くなっていく。
輪郭から溢れる光のせいか、
教室内の空気まで少し熱を帯びていく。
反射的に僕は視線をそらそうとした――
その時。
瞳が、見えた。
はっきりと。
霧が晴れ、柔らかな光を宿した茶色の瞳。
「あ……見えたの?」
「あ……見えた……!」
他の女子には絶対見えなかった“瞳”。
あかりだけは、僕の輪郭視に反応して――
本来の表情を取り戻していた。
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そして、予期せぬ現象
「ゆうと……もうちょっと……見て」
気がつけば、距離がかなり近い。
息が触れ合うほど。
輪郭の光はさらに強くなり、
その線が、まるで“僕のほうへ手を伸ばすように”揺れた。
「……わっ」
あかりの肩から、薄い光の“残像の腕”が僕の胸に触れかけた。
(ちょ待ってこれ触れるの!?
物理的!?
やばいやばい理性が死ぬ!!)
「なんか……近い……ゆうとが……すごく近い……」
あかりは胸元を押さえ、呼吸が少し乱れ始める。
光がそのリズムに合わせて脈動する。
そして――
あかりの光が“僕の輪郭をなぞり始めた”
見えないはずの僕の輪郭が、
あかりの光と同調し、淡く発光した。
「……な、なぞって……る?」
「ゆうとの……輪郭……触れるような気がするの……」
(やっっっばい!!!
理性、限界突破寸前!!)
あかりの手が、そっと僕の胸元に触れようと近づく。
そのとき――
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. ドアの向こうから声がした
「……そこにいるのは、悠斗くんと——あかりさんね?」
三条先生の声。
一瞬で、あかりの光がふっと消えた。
二人で飛び上がる。
(っっぶな!!
あと数秒で、完全にアウトだった……!!
いや色々な意味で!!!)
ドアがゆっくり開き、先生が立っていた。
「……やっぱり、起きたのね。
二人の“同調現象”。」
「ど、同調……?」
先生は瞳の霧の奥で微笑んだ。
「あかりさん。
あなたは“完全に人間ではない”可能性がある。
そして悠斗くん――
あなたの輪郭視が、それを引き出してしまったのよ」
(……人間じゃ……ない?
あかりが……?)
息が止まった。




