序章の終章-2
序章の終章-2
人が人を金で買うときに、買った人は何を期待するのだろうか?一つは労働力だろう。いつか自分を買い戻せる日を夢見るなら、真面目に働くし、そうそう裏切らない。長く務めた職場なら、自由を買い戻した後でも働いてくれるかもしれない。リュウはこちらにあたるだろう。
もう一つは付加価値を付けて、別の人に売ること。ミレリアは圧倒的に後者だった。
舞台を見て、その彼女の美しさに目を付けた皇帝に、ミレリアは献上されることになった。
・・・・
怒り狂ったリュウが、オーナー室に向かおうとしている。その前をルシエラが立ちはだかった。
他の団員たちは遠巻きに見ている。リュウが何にキレるのかを、理解しているからだ。ルシエラが殺されるかもしれない、でも怖くて止めに行けない。
「どけよ!ルシエラ!」
リュウの怒声が轟いた。しかしルシエラは動じない。
ルシエラは、リュウが嫌いだった。
「どかないよ。リュウ、アンタが出しゃばる筋合いは無いよ」
絶対にいつかこうなると、分かっていたからだ。
「なんでだよ!なんでこうなるんだよ!」
リュウがルシエラに掴みかかった。
ルシエラは、リュウが嫌いだった。
「皇帝はこの国で一番強い男だ。ミレリアみたいな美しい子は、一番強いやつの下に居るのが一番いいんだ!」
なんでこいつは、私にこんな残酷なことを言わせるのか。
リュウがルシエラを締め上げながら吠える。
「だったら、俺が!」
ルシエラは、リュウが嫌いだった。
「お前は!ミレリアを!守れなかっただろうが!!!」
なんで私は、コイツに、こんな残酷なことを言わなければいけないのか。
その容赦なく鋭い言葉は、リュウの心を、深く抉った。リュウはルシエラから手を放して、膝から崩れ落ちた。
・・・・
ミレリアは出発の準備を整えている。不満がないわけではないが、拒否できる立場ではないことも分かってはいた。
引っ越しの荷物を入れる鞄に、今までの魔法研究のメモを入れようとしたのだが、量が多くて入りきらない。引っ越しの手配をしている官僚に、もう一つ鞄を用意してもらうように言った。だが、
「これ以上、荷物を増やさないでくださいよ。そんなゴミ何に使うんですか」
官僚は面倒臭そうに言うと、今ある荷物を馬車に詰め込むため、鞄を持って部屋から出ていた。
ミレリアは残ったメモを両手に抱えて、その場に立ちつくした。




