序章の終章-1
序章の終章-1
あの事件から数か月経った。ミレリアは最初の一か月ほどは一人でふさぎ込んでいたが、最近は、少なくとも外から見たふるまいは、以前の様子を取り戻していった。
リュウも、しばらくの内は団員から遠巻きにされていたが、リュウ自身のふるまいには、特に変化が無かった。ドラゴンであることはバレたものの、キレた理由が明白ではあったので、遠巻きにしていた団員達とも、徐々に元の関係に戻りつつあった。
事件によって深くついた傷は、徐々に元通りになっているように見えた。
・・・・
「ねえねえ、見てよリュウ!どう、このドレス!」
ミレリアが嬉しそうに、リュウの前でクルクルと回っている。あの事件以来で、一番いい笑顔をしていた。
「どうしたの?そのドレス」
笑顔になったミレリアを見て、嬉しくなったリュウは聞き返した。
「ルシエラのお下がりを、仕立て直してもらったんだ。いいでしょ!」
ミレリアが自慢げに言った。
ルシエラがそんなものを持っていたのは意外だな、と思いつつミレリアのドレスをよく見てみる。黒をベースに、手首とスカートが、白のレースで飾りつけられた上等なものだ。ミレリアの黒髪によく似合っていた。
「凄くよく似合ってるね。綺麗だよ、ミレリア」
リュウは思ったことを、そのまま口に出した。
ミレリアは「・・・でしょ」と言って、踵を返して壁側を向いた。
先日、帝都の有名が劇場で、公演団の演劇を行うことが決定した。皇帝も観に来るという事で、全員が熱を入れて準備をし始めた。ミレリアも例外はなく、むしろ誰よりも張り切っていた。ミレリアに贈られたドレスも、その演劇の時に使うための物でもあるらしい。
「演目は何にするの?」
リュウはミレリアに聞いた。
「黒のドレスを貰ったことだし、冥府の女王がいいかなって思ってる」
ミレリアが答えた。冥府の女王を怒らせた狩人が、再終幕で切り刻まれ、血の雨になって終わる有名な演目。
「それじゃあ準備しないとね。血の雨はどうするの?」
切り刻まれる狩人を演じるリュウが、以前聞いた課題について聞いた。
ミレリアが得意げに答える。
「水滴は魔法で観客席との間に落とそうと思ってる。撥ねないように直前で停止させるの」
リュウがなるほど、と思いつつ聞く。
「でも、魔法の操作が難しそうだね」
「それはね、この方式を使って・・・」
そういって魔法のアイデアをまとめたメモ帳を開いて、楽しそうにリュウに説明を始めた。魔法を使った演目は、彼女の誇りなのだ。
・・・・
帝都での舞台は大成功を収めた。客入りもよく、公演団のオーナーも満足げだった。ミレリアの舞台は大好評で、帝都でミレリアは、一躍有名人になった。魔法を使った演出もそうだが、何よりも彼女の美貌が話題になった。
ミレリアは、自分が美人であることには自覚的であった。ただ、どれほど美しいのかに関しては、それほど関心は無かった。なので、その演劇の貴賓席に皇帝が居たことには、それほど頓着していなかった。どういった目的をもってそこから観ていたのかも、特に興味は持っていなかった。




