公演団-2
公演団-2
その日はある川沿いの街での巡回だった。各種の公演内容は中々の盛況だった。特にミレリアの舞台は人気で、地元の有力者などもこぞってやってきた。
事件は、講演の後で起こった。
「放しなさいよ!」
ミレリアの引きつったような高い声が、舞台裏に響いた。
「いいじゃねえか。ちょっとくらい」
一人の身なりの良い男が、ミレリアの腕を掴んで強く引っ張っている。ミレリアは引き離そうと必死だが、どうしても力では敵わない。
男がもっと引っ張ろうとした、その時だった。
「い、痛てえぇぇ!」
突如として男が叫んだかと思うと、ミレリアを掴んでいた手を離した。ミレリアはすぐさま距離を取る。男のミレリアを掴んでいたのと反対側の手が、リュウに掴まれて、逆関節側に捩じられていた。
リュウは無言で腕を捩じりながら、恐ろしい形相で男を見つめている。普段のおとなしいリュウからは想像の出来ない表情だった。
「放せよ!クソッ!」
男はリュウの手を引き離そうとするが、リュウの万力のような力で、とても引きはがせない。団員の一人はリュウに近寄って耳元で囁く。
「もうやめとけ。このクソガキは、地元の有力者の馬鹿息子だ・・・」
リュウが手を離すと、男は逃げるように距離を取った。リュウは男から目線を離さない。男はそのまま逃げていった。
「ありがとう、リュウ・・・」
ミレリアがリュウに礼を言った。リュウはホッとしたよう顔をして、ミレリアを見つめた。
・・・・
リュウが先輩と模擬剣を使った演舞の練習をしている。交互に剣を振り、交互に剣を交わしていく。最初は目で追いかけられる速さだったが、徐々に早くなっていき、とうとう素人目では分からないような速さになっていった。両者の剣はさらに加速していく。その加速が最高潮に達した瞬間、互いの剣が互いの首を狙い、互いがそれを同時に躱した。
「ふう・・・」
演舞を終えた先輩がほっとしたようにため息をついた。リュウも息を切らしている。模擬剣とはいえ当たったら大けがをしかねないので、二人とも真剣だった。
こういった演舞は幕間などで演じられる。舞台ほどではないが、こういったものも人気がある。男性などは舞台よりも、こちらの方が目当てだったりするのだ。
練習を見ていたミレリアが声を掛けてきた。少し前に来ていたが、演舞中に声を掛けるのは控えていたのだ。
「リュウ、今日はどうする?」
いつものように、一緒に図書館に行くかどうかを尋ねた。
「うーん・・・」
リュウは悩んだ。出来ればもう少し練習をしたい。本番では模擬剣ではなく、刃引きした剣を使うので、さらに危ないのだ。先輩が替わりに答える。
「すまんな、ミレリア。今日はもう少しだけ、彼氏を貸してくれないか?」
ミレリアは一瞬だけ「彼氏」という言葉の正当性を考えたが、まあいいやと、いう感じで答える。
「分かった。今日は一人で行ってくるね」
クルリと踵を返したミレリアの後ろから、リュウが答える。
「ごめんね、ミレリア」
ミレリアはオーケー、という感じで手をヒラヒラさせた。
図書館に向かうミレリアを眺める、複数の目がある。いつか舞台裏でミレリアの手を掴んだあの男と、その手下たち。彼らはあれから、ミレリアがリュウと別々に行動するのをしつこく狙っていた。
とうとう一人になったミレリアを見て、彼らは行動を開始した。
こういう奴らはどこにでも居る。いつでも、どこでも、どの時代でも・・・




