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千年竜  作者: ikhisa
終章
43/46

リュウとミレリア-3

 リュウとミレリアが階段に腰かけて、並んで座っている。

 泣き終えたリュウは、ミレリアに、1000年前から来た事。ミレリアに会う……奪うために力を得た……そう思っていた事。竜王に至るまでを話した。


 ミレリアはリュウの話を聞いて、その足を伸ばしながら言う。

「私を奪う……ねえ……誰も彼も、みんな勝手なことを言うよね。私は、物じゃないのに……」

 リュウは、恥ずかしくなった。そうだ、ミレリアなら、そう言うに決まっている。

(なんで俺は、あんなことを思ってしまったんだろうか……)

 リュウは気まずくなった。

「ごめん……」

 リュウは一言だけ呟いた。ミレリアは、そんなリュウを、笑って見つめる。

「リュウが竜王か……そんな柄じゃないのにね……」

 ミレリアの言葉に、リュウはその通りだな、と思う。ミレリアの言うことはいつも正しい。ミレリアは続けた。

「……でも、こうやって会いに来てくれたことは、嬉しい」

 リュウも、嬉しい。ようやく会えた。

「……ごめん、1000年も掛かって」

 ミレリアが笑って答える。

「そうだね、私はもう、おばあちゃんになっちゃったね」

 リュウはミレリアを見つめる。不死であるミレリアの美貌は、今なお色褪せない。むしろ、リュウが1000年前に見たミレリアは、まだ幼さがあったが、今はより洗練された美貌ですらある。

 でも、多分、そういう事ではないんだろう。リュウは、ミレリアに尋ねる。

「……ミレリアは、この1000年、何をして来たの?」

 ミレリアの表情が、少し変わった。何となく、会ってから見るミレリアの顔は、どことなく仮面のように感じていた。それが少しだけ、ズレたように見えた。

「……私の1000年の話は……長いよ……凄く」

 ミレリアは腕を伸ばすようにして、笑顔のまま言った。リュウはミレリアを見つめて言った。

「長くてもいいから、聞きたいな。話してくれるなら……俺は聞きたい。ミレリアが生きてきた1000年を全て、聞きたい!」


 ミレリアはしばらくの間、沈黙を続けた。表情が少し、硬くなった。

 ミレリアが、少しづつ、話し始めた。1000年の記憶を、その長い長い、記憶を……

 リュウは、それを聞く。そして確信する。自分が1000年を越えて来たのは、このためだったのだと。


 ミレリアは語る。記憶の図書館の書架の記憶を。最古の1000年前からの記憶を。リュウとの別れてからの、記憶を。


 百年寵姫のころの、屈辱と憤怒の時代

 皇帝に宝石として継承され続け、心を閉ざすことになった時の話

 男たちに、物扱いされた屈辱と憤怒の日々の話

 ……リュウは、拳を握りしめた。俺も、同じようなことをするところだった。ミレリアの目を、見つめるのが辛い。だが、何も言わずに聞いた。


 ミレリアの糸を駆使した、陰謀時代

 手段を択ばず、権力を渇望した時の話

 男どもを誑かし、皇帝の選挙結果を操り、宮中を掌握した。寝室で一人、勝鬨を上げた時の話

 ……リュウは、耳を塞ぎたかった。ミレリアのそんな話を、聞きたくなかった。でも、手を動かさない。目も逸らさない。何も言わずに聞いた。


 冥府の女王の、恐怖支配時代

 魔術を持って、帝国のあらゆる力をねじ伏せた時の話。自分を襲い来る帝国兵を血祭に上げ、血の雨を降らせた、苛烈なる演目

 自分から奪い続けた、男たちへの復讐の話

 ……リュウは、信じられなかった。ミレリアを、そっと見つめた。だが、力を得たミレリアなら、もしかしたらやってしまうかも、とも思った。


 過ちを知り、贖罪の道を進んだ、国母時代

 リュウのように罪悪感に苦しんだ時の話

 自分の取り上げた赤子にルシエラと名付けて、自分自身が救われた時の話

 ……リュウは、安堵した。ミレリアが救われたことに、安堵した。そして、自分もまた、ミレリアと同様に、救われたことにほっとした。小さく、ほっと溜息をついた。


 国母を返上し、守護者となった時代

 重荷を下ろして、身軽になったときの解放感を得た時の話

 壁に飾ってあった国母の賞状を外して、押し入れに大切にしまった時の話

 ……リュウは、納得した。ミレリアがなぜ、皇帝すら見捨てた帝国を守るのに奔走するのかが、分かったからだ。リュウは、ミレリアの微笑みを、優しく見つめた。


 平和な時代

 国が豊かになり、充実した日々を過ごした時の話

 親友との別れの話。彼女の最後を看取ったのに、涙が出てこないときの話

 穏やかな毎日の話。帝国が安定し、民もみな余裕があって、昔よりも皆が優しくなっていく話

 自分の取り上げた子供の子孫が、とても沢山いる話。みんなが代々ルシエラの名前を子供に着けるから、どのルシエラなのか分からなくなった話

 ……リュウは、嬉しかった。ミレリアが幸せそうで。話しているミレリアもまた、とても幸せそうで。リュウも、ミレリアのように、微笑を浮かべた。


 ドラゴンとの戦いの序章である水王時代

 自ら戦場に赴き、守護者として敵と対峙し始めた時の話

 初めての戦場、初めての決戦の話

 ……リュウは、腑に落ちた。なぜ、ミレリアが戦場に出てくるのかが分かった。きっと他人任せにするのが嫌だったのだろう、と。ミレリアの握りしめた拳を見つめた。


 ドラゴンと決定的に決裂した傾国の魔女時代

 疲労困憊から、決定的な失敗をしてしまった時の話

 もはや取返しのつかない、でも引けなくなってしまった話

 ……リュウは、心苦しくなった。まさに、自分はその戦争の当事者の一員となってしまったからだ。だが、何も言わずに聞いた。


 そして、今の、千年公時代

 貴族たちが次々と帝国から離反し、それでも自分はそれを止められない話

 皆から余裕が無くなり、自分が妬みや恨みの対象になった話

 それもでなお、自分のことを千年公と呼び、慕ってくれる人たちもいる話

 勝つことは出来ない、でも負けを受け入れることもできない、ミレリアの誇りの話

 帝国の滅びを確信し、自分もまた、死を受け入れつつある話

 ……リュウは……リュウは……何も言わずに、聞いた。



 ミレリアの記憶、その膨大な記憶

 ミレリアの記憶は帝国の記憶

 帝国の記憶はミレリアの記憶

 誰にも話せなかった、その記憶


 

 リュウは聞いた。聞くのが辛い話も、あった。幸せな話も、あった。ただ、黙って、聞き続けた。


 いつしかミレリアは、リュウに体を預けて、寄りかかっていた。寄りかかりながら、囁くように、その記憶を語り続けた。

 長い、長い、長い話だった。


 長い話が、終わった。ミレリアの目から、一筋の涙が流れた。

「私は、誰かに、ずっと、話したかった……」

 ミレリアが呟くように言う。

「ずっと誰かに、ただ、私の話を聞いて欲しかった……」

 ミレリアの枯れた涙が、数百年ぶりに流れた。

 誰にも話せなった。でもリュウにだから話せた。1000年前から来た、リュウにだからこそ、話せた。


 ミレリアもまた、救われたのだ……


 リュウは、ミレリアを優しく見つめる。ここに来て、千年を越えて来て、本当に、良かった。そう、思いながら……

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