リュウとミレリア-1
巨大なドラゴンが帝都に向かっていると聞き、ミレリアと近習の不死隊は、宮殿から出ている最中であった。外の長い階段を下り、踊り場に差し掛かろうとしていた。その時に、凄まじい速さで迫りくる、竜巻を伴ったドラゴンを目にした。
宮殿から外へと続く、広い階段の踊り場。その巨大なドラゴンは踊り場に辿り着くと、変化を解いた。一人の男がその踊り場に降り立った。
ミレリアは括目し、杖を構えた。周りの兵士たちも各々の武器を構える。
男は、構えない。でも多分、そんなことは問題ではない。
兵士たちは直感した。彼らの全細胞が言っている。絶対に……無理だと。
ミレリアは男を見て、戦慄し、鳥肌が立った。ドラゴンであることは間違いない。ただ、先ほど見たドラゴンは、百年前に戦った竜王ウロボロスなど比ではない、巨大なドラゴンであった。ミレリアの千年の記憶をもってしても、こんな者、あんなモノは見たことがない。間違いなく、この男は、この時代の新たなる竜王。
ミレリアは目の前の男の顔を見つめる。ふと、違和感を覚えた。どこかで、見たことあるような気がする。でも思い出せない。とても古い記憶のような気がする。
それに男の目、アレは見たことがある。いや、見たことがあるというのは、正確ではない。あの目は、身に覚えがある……
ミレリアは周りの兵士に告げる。
「……私、一人で戦います。皆さんは、下がってください」
兵士が答える。
「し、しかし」
ミレリアは、それに、目の圧で返す。二度、言わせるな、と。
兵士たちは、男を遠巻きにしながら踊り場を回り、階段を下りて行った。
全員が踊り場から出たのを見ると、ミレリアは踊り場を、巨大な渦を巻く水泡で包んだ。
踊り場を下る兵士が悔しそうに言う。
「我々では、足手纏いということか……」
だが、正直なところ、少しだけ、ほっとしていた。
踊り場の下から、兵士が振り返る。巨大な水泡は渦を巻き、中で何か起こっているのかが、外からでは分からない。
だが、きっと、あそこで、帝国の最後の戦いが始まるのだろう……
ミレリアは目の前の男を見た。兵士を逃がしても、水泡で閉じ込めても、男はなんの反応もない。
暫く様子を見ていたが、攻撃してくる気配はない。
もう一度、男の顔を見つめる。私は……彼を知っているような気がする。敵ではない。むしろ、親しい間柄だったような気がする。多分、とても古い記憶だ……
ミレリアは、自身の記憶の図書館に潜り始めた。
ミレリアは潜る。膨大な記憶を、辿る。
100年前 傾国の魔女
いや、もっと古い……
200年前 水王
もっと、もっとだ……
300年前、400年前
まだ、見つからない……もっと、古い?
500年前 守護者、国母
まだ?もっと?
600年前
700年前 冥府の女王
800年前
900年間 百年寵姫
深い……とても、深い……記憶の奥底
1000年前
……まだ、ミレリアが、ただのミレリアであったころの記憶
居た……まさか……そんな……ありえない……でも……
ミレリアは記憶から浮上する。1000年後の、今、目の前に居る男を再び見た。
「……リュウ?」
ミレリアの言葉に、ようやく男は反応した。
「ミレリア……」




