公演団-1
公演団-1
黒髪の美しい少女が、口に手を当てながら、おぞましい口調で言う。
「愚かな狩人よ!よくもまあ、これほどまでに愚かな真似をしてくれたな。その身をもって、贖うがよい!」
凛々しい青年が、膝を付きながら、赦しを乞うように手を少女に向けて言う。
「申し訳ございません、女王様。決してそのようなつもりでは、ありませんでした」
「黙れ!もう、おしまいだ!」
そう言って、少女の手が切り裂くように宙を切った。その瞬間、水しぶきが舞う。青年はその場で、バタリと倒れた。
「・・・で、ここで降らせる水しぶきに、食紅を混ぜようと思っているんだけど」
女王を演じていたミレリアが、再終幕で狩人が切り刻まれるシーンの、演出のアイデアを述べた。
狩人役のリュウがのっそりと起き上がると、それに答える。
「食紅かー、でもそれだと衣装にくっ付いて、後で大変じゃないかな?」
それを聞いてミレリアが「んー、確かに」と呟いた。
リュウとミレリアが公演団に売られてから、数年が経った。
最初は泣いていたミレリアだったが、もともと人懐っこい性格であることもあり、すぐに公演団の団員たちに可愛がられる形で慣れていった。今は演劇の主演女優として活躍し始めている。特に魔法を使った演出と、彼女の美貌で、少しづつ人気が出ていているようだ。
リュウは演劇だけでなく、武器を使った演舞も担当している。と言うよりはそちらが専門だ。演劇専門の男優も居るには居るのだが、ミレリアの魔法を絡めた演出に息を合わせられるのがリュウだけなので、ミレリアの舞台ではもっぱらリュウとコンビを組んでいる。
二人で演出の話し合いをしていると、部屋の入り口からルシエラがミレリアを呼ぶ声が聞こえた。
「ミレリア、そろそろ時間だから準備をしなさい!」
ミレリアが答える。
「はい、はーい。今から行く」
ルシエラがそれを聞いて眉をひそめた。
「返事は一回!」
ミレリアが口を尖らせて答える。
「はーい」
まったく、と言ってルシエラは腕組みをしてミレリアを見る。ルシエラはミレリアに厳しい。でもミレリアは特に嫌がっていない。彼女には母親が居なかったので、どこかルシエラを母親のように見ているのかもしれない。
「じゃー後でね、リュウ」
そういいながら、ミレリアは部屋から出ていった。
ルシエラはリュウを睨みつけるように一目見てから、ミレリアに続いて出ていった。
ルシエラは、どうもリュウのことが嫌いなようだった。リュウには特に嫌われる心当たりがない。なのでリュウはルシエラが苦手だった。
・・・・
リュウとミレリアが街の図書館に居た。公演団は各街を回って巡回をしているが、中には図書館のある街もある。時間があるときに、二人で魔法に関しての書籍を漁るのが二人の日課だった。流石に本を買うお金はないし、お金は売られた自分の身を買い戻すために貯めておきたい。二人とも読んだ内容をメモ帳にまとめている。演出に使う魔法のアイデアを考えるのに使うのだ。
本を読みながら、ミレリアがブツブツと言っている。
「やっぱり、書いた人によって言葉の意味が違うのが困るな。この本とその本で使われている単語、単語は同じだけど全然違う意味じゃん」
リュウが頭をペンで掻きながら、それに答える。
「書いた人によってやり方も違うからね。たまに明らかに間違っている方法が書かれていることもあるし」
ミレリアが本から目を離して、リュウの方を向いた。
「それよ、それ!やっぱり魔法に関しての本の内容を、全部まとめて整理する必要があるのよ!」
リュウが関心したように、ミレリアを見て言う。
「凄い、壮大なことを考えるね・・・」
確かにそれが出来たら魔法の勉強が捗るだろうなと、リュウは思う。
「私はやってやる!私には無限のパワーがあるんだ!」
ミレリアが決意を述べた。
司書の人が顔を覗かせて、迷惑そうに言う。
「図書館では・・・静かにしてもらえませんかね?」
二人は怒られた。




