酒-2
ヴォルスは指を組んで、肘を机にかけながら、リュウを見つめた。信じがたい話だった。だが、嘘でこんな話をする理由がまるでない。信じがたいが、リュウの表情は真面目だ。リュウと一緒にいたルネが、リュウが異常に世間知らずだった、と言っていたことを思い出した。本当に1000年前から来たのであれば、そうなるだろう。辻褄は合っている。ヴォルスは呟くように、リュウに聞いた。
「要するに、お前は、ミレリアのために力を欲したと……」
リュウはコクリと頷いた。
ヴォルスにとってミレリアとは敵だ。宿敵と言ってもいい。そのミレリアのために力を欲しているリュウにしてみれば、ヴォルスは邪魔ものだろう。リュウがどこか浮かない顔をしていた理由が、これで分かった。
ヴォルスは、本来であればキレるべきだったのかもしれない。だが、そんな気にはならなかった。そもそも1000年前のドラゴンであれば、今の時代のドラゴンと価値観が違うのは当然なのだ。ドラゴンとミレリアとの敵対関係は、ここ100年で起きたことに過ぎない。おまけに幼馴染で、どうも恋人に近い関係だったようだ。
ヴォルスはリュウ整った顔を見つめながら、内心で呟いた。
(なんだ、これ。コイツ……こんなに、ロマンチックな奴だったのか……)
ヴォルスは突然、別の意味で腹が立ってきた。
(なんていう、ドキザ野郎なんだ!なまじ顔が良いので、無性に腹が立つ!)
そうだ、と、ヴォルスは大切なことを思い出した。
「おい、リュウ。ちょっと、こっちにこい……」
ヴォルスが仏頂面でリュウを呼ぶ。リュウが不思議に思いつつ、椅子を立って、ヴォルスの方に近づいた。ヴォルスも椅子から立つ。
仏頂面のヴォルスと、不思議そうな顔をするリュウが向かい合う。そしてヴォルスが右手を大きく振りかぶると、思いっきりリュウをぶん殴った!
ぶん殴ったヴォルスが吠える!
「お前ってヤツは!なんだ、女のために戦う!とか抜かしておいて、ルネに手を出したのか!お前、本当に最低だな!あの後、滅茶苦茶大変だったんだぞ、テメー!」
リュウは、全然良く分からない理由でぶん殴られて、ぶっ倒れた。ヴォルスを見上げながら、呆然としている。
「……え?ルネ?ルネがどうかしたの?どういうこと?」
リュウは本当に心当たりが無かったので、ヴォルスに尋ねた。ますます不思議そうするリュウの顔を見て、ヴォルスはますます腹が立った。
「ルネに、銀だから、黒髪に似合って、素敵なんじゃないか?とか、ドキザなこと言ってペンダントを渡しただろうが!ルネのヤツ、あれで滅茶苦茶、その気になったんだぞ!あの後、マジで大変だったんだからな!」
リュウは思い出した。そして、説明した。
「あれは……長い間世話になったから、そのお礼だよ。銀だったら換金もしやすいだろうし、ミレリアも黒髪に銀が似合っていたから、同じ黒髪のルネにも似合うんじゃないかな?って」
ヴォルスは信じられないものを見る目でリュウを見つめた。
(コイツ……天然だ。マジでタチ悪いな。さっきもそうだ。サラッと真顔で、ドストレートに他人を褒める。今までずっと、こうやって来たんだ……)
ヴォルスはリュウを指さして叫んだ!
「お前、本当に最低だよ!なんて罪深いヤツなんだ!どうせアレだろ!フローゼも、そうやってコマしたんだろう!俺には分かるね!本当に最低だよ、お前!」
リュウは心外だった。陰謀めいたことはしたのだが、女心を弄ぶようなことをした覚えはない。
「……そんなことは……ない……」
とはいえ、後ろめたくないわけでは無い。リュウの回答は、歯切れが悪く、弁明臭くなった。リュウはヴォルスから目を背ける。
それをみて、むかっ腹の立ったヴォルスの蹴りが、リュウに炸裂する。
「うるせー!俺はお前を殴る!ドラゴンの男代表として、俺はお前をシバく!」
ドラゴン代表のヴォルスの蹴りが、何度もリュウに炸裂する。リュウは蹴られるままになっている。
「ったく。女も守れないのに、女を勘違いさせるのは得意ときた。本当にタチ悪い」
ヴォルスのその言葉は、リュウに刺さった。リュウは床に手を付いて、泣いた。
「……そうだ……俺が、あの時……もっと……もっと…………」
流石に言いすぎたと思ったヴォルスは、慌てた。しゃがみこんでリュウを慰める。
「いや、済まなかった。今のは言いすぎた。そうだよな、誰だって最初から強いわけじゃないんだ。お前は悪くないよ。時代が悪かった、ってやつだ」
酔っ払い二人の宴は、こんな感じで一晩中続いた。
二人は、親友になった。
朝が明けた。ヴォルスが、二日酔いで痛くなっている頭をさすって目覚めた。目の前には、机にうつ伏せとなって、まだ寝ているリュウが居る。それを見て、ヴォルスは思った。
別に、強くならずとも、会いに行けば良かったんじゃないか?
ドラゴンとは戦争中とはいえ、変身しなければ人間と見分けなんてつかない。こっそり行けば、会えなくは無かっただろう。
だが、ヴォルスはそう思っても、それをリュウに言う気にはならなかった。それは、ドラゴンの生き方そのものを否定するような気がして、ヴォルスも何となく言う気にならなかったのだ。
ヴォルスは寝ているリュウを見て、呟いた。
「俺も、お前も、ここまで来たら、行くとこまで行くしかないよな……」




