酒-1
リュウとヴォルスが向かい合って酒を飲んでいる。会話は無い。酒だけが減っていく。
酒が入れば何か話が弾むだろう。そう思って飲みに来たのに、思いのほかそういったことにならない。酒だけが減る。飲んでいるときには、良くある話だ。
ヴォルスは無表情で酒を飲みながら、リュウを見つめる。リュウは目線を、目の前のジョッキに合わせたまま、無表情だ。ヴォルスは心の中で、リュウに念を送る。
お前だって飲むのを提案しただろうが!なんか喋れや!
自分のことは棚の上に上げた。念が届いたのかどうかは良く分からないが、リュウが目線をヴォルスに合わせると、会話を切り出した。
「……ヴォルスが帝国と戦っている理由って、なんだったっけ?……飛竜一族の誇りのため……だったっけ?」
ヴォルスはジョッキを置いて、リュウを見つめた。ヴォルスは少し悩んだ。だが話してみることにした。酒が入ったせいか、何となくそんな気分になったのだ。ヴォルスは語り始めた。ほとんど誰にも話してこなかった、その理由を。
「……確かに、一族の誇りというのは間違いじゃない。俺は飛竜一族に生まれて、生まれてからずっとそれを叩き込まれた。100年前の屈辱を晴らせと……」
ため息をついてから、続ける。
「だが、俺は嫌いだった。一族の誇りというものが。いや、正確じゃないな。俺に一族の誇りを背負えと言ってくる連中が、嫌いだった。他人にグダグダ言う割には、自分で背負う気が無い。そんな連中が、嫌いだった。だから背負った。誰よりも、背負った。そうすれば、もう俺にグダグダ言ってくるやつなんて、居ない。居たらぶっ殺してやればいい!だから戦う理由を一言だけで言うならば、一族の誇りのためというのは間違いないな……」
ヴォルスは目を見開いている。
ヴォルスはドラゴンだった……だが、真面目だった。
リュウはそれを聞いて、思った。
(……偉いな、ヴォルス)
リュウは、自分の運命から真正面にぶつかってねじ伏せていくヴォルスに、尊敬の念を抱いた。
もしもヴォルスと戦うのであれば、このヴォルスの感情はキレさせるのに使えるかもしれない。だが、リュウはそういう気にはならなかった。リュウは、フローゼの時のように、陰謀めいたことをするのに、あまり躊躇しない気がある。それでも、ヴォルスにそういったことをする気にはならなかった。
「彼は真面目だからね。見た目に反して、本当に真面目だ」
以前、アルベストに聞いた、ヴォルスの評価。それは、正しかった。
「……ヴォルスは、偉いな……。凄いと思うよ……」
リュウは思ったことを、そのまま言った。
ヴォルスは髪を掻いた。ここまでサラッとド直球に褒められると、少し照れてしまう。少しにやけそうになったので、ジョッキを煽ってそれを隠した。ジョッキを置くと、ヴォルスもリュウに尋ねた。
「お前は……力を欲していたな。ドラゴンなら当然、と思っていたけど、まさか、フローゼとアルベストを喰うほどとは思わなかった。お前は、なんでそこまでして力が欲しいんだ?」
リュウは悩んだ。1000年を超えて来てから、それを誰にも喋ったことが無い。言ったところで、誰にも信じないだろうとも思っていたし、頭が変に思われるだけだろう、と。
だが、リュウはいい加減、誰かに話したかった。本来であれば、ミレリアと戦う予定のヴォルスには話すべきではないだろう。だが、話してみることにした。酒が入ったせいか、何となくそんな気分になったのだ。
リュウは語り始めた。1000年前からのミレリアとの関係、その別れ。1000年を越えて、再びミレリアと会うために力を渇望している、その理由を……




