黒き飛竜オルドロス-1
リュウとアルベストの決闘よりも、しばらく前のことだった。
一人の男が不機嫌そうに、ヴォルスの野営地を歩いていた。デカい男だ。大柄な男よりも頭二つ分はデカい。その背中にこれまたデカい剣を背負っている。服装も派手で、デカい羽根のついた帽子を被って、派手な厚手の更衣着て、だぶついた服の部分を紐でぐるぐる巻きに縛っている。その顔は狼のように鋭い。
男はオルドロスと言う。周りの者は皆が、オルドロスを割けていく。それがまた、オルドロスを不機嫌にさせる。これは仕方ない。オルドロスのような男が不機嫌な顔で歩いていたら、誰だって避ける。
オルドロスが不機嫌なのは、最近、自分よりも話題になっている、ある男が原因だった。
突如として現れ、四竜であるフローゼを喰らった、謎のドラゴン。皆が彼を噂していた。アイツは何者だ?以前このヴォルスのところに居たやつらしい、と。
オルドロスはリュウを知っている。以前、ヴォルスの野営地へ来た時に武器の整理をしていたガキ。あの時は、見知らぬガキが居るな、くらいの認識だった。それが、今やオルドロスよりもはるかに話題になっている。
オルドロスは目立つのが好きだった。派手な恰好も、戦場で好戦的に振舞うのも、時々無駄な煽りをするのも、全て目立つためだ。みんな、俺をもっと見るべきだ、と。そんな自分よりも、以前見た、よく分からないガキのが目立っている。これがオルドロスをイライラさせていた。
大体、なんなんだよ、あのガキ。なんか知らないが、ある時から俺のことを敵意のこもった目でチラチラみてきやがる。なんなんだよ!俺、なんもしてねーだろうが!
「ミレリア、お前は俺のモノだ!!!お前のすべてを奪って破壊してやる!お前のすべてを踏みにじってやる!」
これは仕方ない。まさか戦場で敵軍のミレリアを煽った言動が、味方のリュウにぶっ刺さっていたなんて、流石に夢にも思わない。
そんなわけでオルドロスは、「自分のことを気にいらないガキが、自分よりも話題になっているのが気に入らない」という理由で、イライラしていた。
とは言え、オルドロスはそんなことでキレない。見かけに反して、存外理性的なのだ。そうでなけば、四竜などやって居られない。
とはいえ、イライラはしていた。
オルドロスは野営地にある、ヴォルスのテントに入っていった。ヴォルスに会うのは、以前共闘して以来のことだった。テントに入ると大柄な男が部下と会話をしていた。ドレッドヘアーの髪型に、バンダナを巻いている。質素な短衣に身を包み、左目には眼帯をしていた。この男がヴォルスだ。ヴォルスは入ってきたオルドロスに気が付かないまま、部下と話しを続けていた。
「まさか、あのリュウがフローゼを喰うとは……何かやりそうだとは思ってはいたが……」
おめーも、そっち見てんじゃねーよ!
オルドロスは、キレはしないが、イライラした。
以前のミレリアとの戦いで敗れたドラゴン族は、それ以降はミレリアを徹底的に避けて、居ないところを攻撃する、という戦略で帝国攻略を進めていた。なのでヴォルスとオルドロスは別々に軍を率いて、別々に戦っていた。ミレリアと戦わないのであれば、別々で行動した方が効率的だったためだ。
この戦略が功を制して、ドラゴン族は帝国領を凄まじい速度で齧り取っていった。今や、帝都の目前まで侵攻が進んでいる。
しかし、それゆえに問題も出てきた。ここまでくると、もうミレリアとの対決が不可避となるからだ。
以前戦った時は、ヴォルスとオルドロスの二人掛りでも歯が立たなかった。そうなると別の方法を取るしかない。フローゼが落ちたことで、以前組んだ四竜の協定も、実質的に無効になっている。ヴォルスとオルドロスが喰い合って、勝った方がミレリアと戦う!
まあ、しょうがねーよな。それしかなさそうだし。
そんなわけで、オルドロスはヴォルスへ会いに来たのだった。喰い合うために。




