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千年竜  作者: ikhisa
第三章
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決闘-2

 二頭の巨竜が睨みあう。リュウはアルベストの横っ腹を狙うために、低空をうねるように疾走する。アルベストがそうはさせまいと、回転しながら、自身の頭をリュウの頭部と向い合せる。リュウは旋回を逆方向に切りつつ、体をくねらせると、尻尾を高く跳ね上げ、鞭のようにアルベストの頭に叩き落とした。水を纏った、重い一撃。が、アルベストは動じない。それどころか、そのまま尻尾にかじりつこうとする。リュウは尻尾を薙ぎ払うように切って、それを回避した。

 リュウは内心でヒヤヒヤとしていた。アルベストの一撃は重い。特に、巨大な顎による一撃は、今のリュウの体であっても致命傷になりうるだろう。正面は絶対に避けなければならない。

 リュウは再び、アルベストの横っ腹を狙って旋回しようとした、瞬間、アルベストはそれに合わせるように逆回転をすると、今度は自分の尻尾でリュウを薙ぎ払った。リュウはこれを寸前で回避するが、少しだけかすった。かすった部分に鈍い痛みを覚えつつも、リュウは払い終わったアルベストの尻尾に沿うように疾走し、アルベストの首筋に嚙みついた。噛みつきつつ、自身の長い体をアルベストの胴体に巻き付けて、全身で締め上げていく。アルベストはそれを振り払うべくもがきながら、前腕をリュウの胴体に振り下ろそうとする。リュウはそれを防ぐために、自分の前腕でアルベストのそれを抑え込む。リュウが抑え込みつつあった。

 しかし、アルベストはリュウが巻き付いたまま、二足に力を入れると、リュウと一緒に、思いっきり中庭側の城壁に突っ込んだ。衝突の衝撃で、リュウの拘束が緩む。その瞬間にアルベストは脱出に成功した。

 城壁の揺れる音が響く中で、二頭は再び距離を取って睨みあう。


 互角!と言って良いだろう。

 観客が歓声を上げた。


 噂と騒ぎを聞きつけて、近隣のドラゴン達がどんどん集まってくる。見張りの兵士は止めない。そんなものはすっぽかして、自分も観戦に行っているからだ。時々、巨竜たちの攻撃に巻き込まれる者も居るが、そんなことは誰も気に留めない。

 片や、四竜最強と言われる、高名なドラゴン。片や、突如として現れ、大物喰らいを成し遂げた、謎のダークホース。久しぶりの決闘で、こんな面白い対戦カードが組まれたのだ。どう考えても、力の信奉者たるドラゴンなら、絶対に好きなヤツだ。こんな神聖な儀式を見損ねたら、絶対に後悔するだろう。

 中には観戦客に酒を売るものが現れ始めた。賭場も開かれ、どちらが勝つかの賭けも始まっている。今のとこはアルベストの勝利予想が優勢だ。

 しかし、そこに一人の男が現れた。彼はリュウの勝利に、有り金を全部突っ込む。賭場に集まっている者がどよめいた。男の名前は、ハスキル。

 ハスキルは、いつもは猫背の背筋をピンとのばし、リュウを指さして叫んだ!

「ぜってー勝てよ!リュウ!俺に損をさせたら、ただじゃ置かねーからな!!!」

 ハスキルはドラゴンだった。


 一進一退の攻防が続く。どちらも魔法弾はあまり使わず、肉弾戦がメインになっている。魔法弾で決定打とするには、ある程度の溜めが必要なので、こういった場では使いにくいのだ。

 どちらからも疲労の色が漂ってきた。客観的に見たらアルベストの方が優勢と言える。リュウには決定打を与える手段がなさそうだが、アルベストの顎は間違いなく勝敗を決するであろう威力がある。

 ただアルベストの主観ではそうでもない。どうもリュウは、何かを狙っているように感じられるからだ。アルベストは経験豊富だが、それでも海竜との戦いの経験はほぼ無いので、その点を不気味に感じている。

 二人は再び旋回しながら、互いの様子を伺う。リュウは少しずつ低空から高度を上げて、再びアルベストを見下ろし始めた。

 アルベストはキレながら、内心で毒づいた。

(本当に腹立つな、このクソガキ!なまじ飛べないドラゴン仲間と勝手に思っていた分、余計に腹が立つ!)

 疲労と怒りで頭がどうにかなりそうだ。アルベストはギリギリで理性を保っていた。

 ギリギリの攻防。ギリギリの理性の均衡。それは、意外なところから破られた。


「おい、大変だ!大変だぞ!!!」

 一人の男が騒ぎながら、観客の方に走ってきた。

「なんだよ、今いいところだから邪魔するなよ」

 息を整えている男を、観客が邪魔くさそうに見つめる。やっと落ち着いた男が、重要なニュースを伝えた。

「ヴォルスが、オルドロスを、喰った!」

 そのニュースには、観戦していた観客もどよめいた。

「マジか!?」

「そっちも観たかった……」

「日程はずらしてくれよ……」

 もう1つの決闘を見逃した観客が、残念そうに騒いでいる。


 これが決闘中のアルベストの耳に入ってしまった。アルベストのギリギリの脳みそに、更にノイズが増えてくる。

(ヴォルスがオルドロスを喰った!?不味いぞ、そうなると、次はヴォルスが俺を喰いに来る可能性が高い。早く目の前のコイツを喰わねば……)

 疲労と怒りに押しつぶされそうだった理性は、焦りによって一気に崩れた。

(さっさと降りてこいや!このクソガキ!いつまで飛んでやがるんだ、このウナギ野郎!遅延行為だろうがああああああ!!!!!)

 アルベストが四肢に力を入れ、全力の魔法弾を溜めだした。当たれば必殺。しかし今まで撃たなかったのは、溜めの隙が大きすぎて、当たらないから。

 普段のアルベストなら絶対に取らない凡手が、疲労と怒りと焦りによって引きずり出された。


 リュウはこの隙を見逃さない。一瞬で滑走すると、一気にアルベストの首元に狙いを定めて突っ込んだ。古傷に打ち込んだ剣の切っ先は、度重なるリュウの攻撃によって、ようやく皮膚を切り裂いて小さな穴をあけることに成功している。小さくても構わない。リュウはその傷口に喰いつくと、その傷口めがけて、風船を膨らませるように、高圧水流を叩き込む。

 傷口に注入された水流は、アルベストの首元に巨大な水泡を作り出した。リュウはそれに噛みつくいて、力任せに引きちぎろうとする。

 突如として生皮を剝がされるような痛みに襲われたアルベルトは、リュウを全力で振り払おうと暴れる。リュウはアルベルトの体に全力で巻き付き、相手の両手を自身の両手で抑え込みながら、水泡をむしり取ろうとする。アルベストは再び城壁に突っ込もうとするが、リュウの水で泥だらけになった地面で足を滑らせて、思うように動けない。リュウは全力で抑え込む。ここで逃したら、恐らく負ける。

 リュウは分厚い紙を食いちぎるように、アルベストの首元の水泡をむしり取った。アルベストは痛みと恐怖で目を見開き、この世の物とは思えない声で叫んでいる。リュウは鱗も皮膚もない、がら空きになったアルベストの首元に、全力で魔法弾を叩き込んだ!

 長きに渡る決闘の勝敗は、とうとう、決した!


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 観客が手を上げて興奮している。とんでもない番狂わせが起こったぞ、と。ハスキルも両手を上げて興奮している。


 息絶え絶えのまま、リュウは顔を上げる。そして気が付いた。周りの観客に。

 城壁の上にはみっしりと人が詰めかけ、中庭の周囲にも沢山の人たちが居る。皆が歓声を上げている。


 リュウは思い出した。かつて公演団に居た時の、幕間の演舞、その終わりの光景を。そして見渡す。その時とは比べ物にならないほどの歓声を。

 リュウは高揚した。かつてないほどに、高揚した。

 リュウは、吠えた。その高らかな高揚のままに、勝利の雄叫びを上げた!

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