岩竜-2
リュウは再びアルベストと食事をしている。とりあえずはハスキルの助言に従ってみることにしたのだ。アルベストとは、魔法施設の今後について話したい、という口実で食事の約束を取り付けた。
「フローゼには、多くの貴族の顧客が居るのですね」
リュウはとりあえずの話題を切り出した。アルベストが、したり顔で答える。
「ああ、そうだ。多くの顧客は私が紹介したのだよ。私には多くの友人がいるからね」
アルベストは300年を生きている貴族でもある、とは以前聞いた。その辺を突っ込んでみることにする。
「ドラゴン族であっても、他の種族の貴族との交流があるのですね。ドラゴン族と帝国とは戦争中なので、色々と難しそうに思えるのですが」
アルベストはワインを飲みながら、答える。
「まあ、帝国とドラゴン族との間で戦争が本格化したのは、ここ100年に起きたことだからね。それ以前から交流のある方との関係は、続いていたりする。それに最近では帝国の求心力が落ちてきて、帝国から距離を取る者たちも少なくない。例えば、ヴォルス達に攻められても帝国が助けに来てくれない、と嘆く者も居る。そういった人たちは、私にヴォルス達との仲介をお願いしに来ることもある」
色々と興味深い話題が出てきた。酒が入って、舌が滑らかになったのだろう。どの話題から引っ張るべきか……
「以前、ヴォルス達のところへ居たときに聞いたのですが、ドラゴンと帝国の確執は100年前の一騎打ちが原因だったと聞きました」
リュウが振った話に、アルベストが喰いつく。
「あの話か……随分と懐かしい。実はあの戦場には、私も居たのだよ」
アルベストは、まさかの生き証人だった。アルベルトは思い出すようにしながら語りだした。
あの日、戦場には二人の圧倒的な強者が居た。
帝国には魔女ミレリア。長き時を生きる、誰でも知っている有名な人魚だ。ドラゴン族にはウロボロス。竜王と呼ばれた、とても巨大な飛竜だ。ヴォルスやオルドロス達よりもはるかに大きかった。
最初に仕掛けたのはウロボロスだ。戦場に出てきたミレリアに向けて、巨大な魔法弾を放った。彼女はその魔法弾を水柱でいなすと、上空に上昇していった。ウロボロスはそれを見て、一騎打ちのために、ミレリアを追った。二人は共に上昇していった。二人はとても高いところまで昇ったかと思うと、突然ウロボロスがだけが落ちてきた。そして、そのまま死んだ。
とても、あっけなかった。私は自分の目が信じられなかった。彼らの一族にとっては、なおさら信じられなかっただろう。
彼ら一族は、その結果を受け入れられなかった。その日以来、彼らは帝国を敵として恨み、そして今に至る。
リュウはワインを口にしながら、その話を聞いた。
(凄いな、ミレリア)
興味の湧いたリュウは、そのまま続けて聞いてみる。
「ヴォルスは、汚い手段で負けた、と言っていましたが、どういう手段だったんでしょうかね?」
リュウの質問に、アルベストもワインを飲みながら答える。
「恥ずかしいかな、私も現場にいた当時は分からなかった。あとで色々と情報を集めたのだが、どうも恐ろしく高度な駆け引きがあったようだ。高度過ぎて、分かりにくかった。分かりにくい、というのはメリットもあるが、デメリットでもある。一対一の決闘という場面においては、結果的に不利になったと言えるのかもしれないな」
リュウは話を聞いていて、何となく違和感を感じた。
(これは何だろうか?)
リュウは優雅にワインを傾けるアルベルトに、以前聞いたことを聞いてみる。
「ヴォルス達の野営地に居た時、他の人たちに戦争の原因を聞いて回っていたのですが、誰も知りませんでした。本当に今でも恨んでいるんでしょうか?」
リュウはぶっちゃけてみた。この人になら、言っても大丈夫だろうという確信がある。
「……100年も前の話だから、みんな忘れているのも仕方ない。こだわっているのは、彼らの一族の上の連中だけかもしれんな。100年も言い続けてきたから、逆に引っ込みがつかないんだろう」
アルベストは呆れた口調で言いながら、皿に持ってあるチーズを口にした。
「ヴォルス自身も、あまり原因にはこだわっていないようでしたね」
リュウは、ヴォルスが酒の席で言っていたことを思い出しながら言った。アルベストはチーズをワインで流し込んでから、それに答えた。
「彼は真面目だからね。見た目に反して、本当に真面目だ。彼らの一族は新参者と言えるかもしれないが、彼自身はヒラヒラとした軽々しい連中とは違う」
リュウにしてみると、何となくヴォルスが評価されているのはうれしい。ついでに聞いておくか。
「オルドロスはどうですか?」
アルベストは一言だけ言った。
「彼は、目立ちたがり屋かな」
食事が終わり、リュウが立ち去った部屋で、アルベストは一人で窓の外を見つめていた。
リュウに反魂の研究について尋ねると、資料が膨大なので引き継ぎに時間が掛かりそうだが、研究開始の準備はしている。とのことだった。アルベストがリュウに、必要なものがあったら言ってくれというと、リュウは素直に礼を言っていた。
(……あの男は本当に信用できるのだろうか?)
アルベストが見つめている窓に、水滴が付き始めた。それと共に雷鳴が轟く。雷雨がやって来たのだ。
アルベストは外を見つめたまま、ため息をついた。
(まあ、焦らずともよい……暫くしたら、分かることだ……)




