岩竜-1
屋敷の近くの森の中にリュウと岩竜が居る。ハスキルに頼んでドラゴンになってもらったのだ。リュウは岩竜のことをあまり知らなかったので、アルベストと戦う前にその特性を知っておこうと考えていた。
リュウが目の前でそびえ立つ、岩竜となったハスキルを見つめる。岩竜、と言われるだけあって、その鱗は分厚くてごつい。翼が無いが、頑強な手足を持っている。丸くて大きい顔を持ち、その分喰らいつける口のサイズも大きい。尻尾も長くて強靭。まさにアルベストの城のように重厚な姿をしている。
リュウがハスキルに尋ねる。
「触っても大丈夫?」
「どうぞ」
とだけ、ハスキルは答えた。
リュウはその鱗を触ってみる。とても固い。以前戦場で岩竜を見た時は、クロスボウの矢も通じていなかったが、生半可な魔法弾も通じないだろう。リュウの持っている剣では、文字通りの意味で刃が立たない。鱗だけではない、鱗の生えている皮膚も頑丈で、その下にある脂肪層も分厚そうだ。何とかして致命傷を与える手段を考えなければならない。
「アルベスト様の体は、より大きく、より硬く守られております」
聞いてもいないのに、ハスキルが言った。この男にしては珍しい。リュウが対アルベストの戦法を練っていることに気が付いたのだろうか。
「……アルベストに報告しますか?」
リュウは鱗を触りながら、ハスキルに尋ねた。場合によっては、この場で喰う必要があるかもしれない。ハスキルも大きなドラゴンだが、今のリュウであれば可能だろう。
「いたしません。今は、リュウ様の部下でありますから」
ハスキルの返事の声のトーンは変わらない。ドラゴンになっているので表情は分からないが、おそらくそちらも変わっていないだろう。この男が何を考えているのか、リュウには良く分からない。
「でも俺の部下である前に、アルベストの部下ですよね。優先順位はアルベストの方が高い、と考えるのが自然では?」
リュウは思ったことを、そのまま言ってみた。ハスキルは同じ声のトーンで言う。
「そう見えるかもしれません。でもそれは私のルールではありません。私はアルベスト様に従っていますが、どう従うのかは、私の決める範疇なのです。よって、アルベスト様の指示に従いつつ、リュウ様に従うのは、特に矛盾はありません」
何やら面倒なことを言い始めた。リュウは、ヴォルスが戦場で、仲間のドラゴンを統制出来ない、と愚痴っていたことを思い出した。アルベストとハスキルの関係も、そういったものなのなのかもしれない。
だったら、と思ってハスキルに質問をしてみる。
「でしたら、俺にアルベストが激怒しそうなことを、教えてもらえないでしょうか?」
これに対する問いは、すぐには返ってこなかった。少し考えてから、ハスキルは答えた。
「これは難しい質問ですね。私から答えるのはフェアではない。リュウ様はアルベスト様と対話して、自ら、それを探るべきでしょう」
それを聞いたリュウの頭に疑問符が浮かぶ。
(フェア?フェアってなんだ?フェアって?)
アルベストもそうだったが、ハスキルはそれに輪をかけて食えない男だ。リュウは目の前の岩竜となったハスキルを見つめる。
(助言自体は適切な内容ではあるのだが……岩竜って、こんなのしかいないのか?)
「貴方が何を考えているのか、俺には全くわかりません……」
リュウは降参した。ハスキルはそれに答える。
「我々ドラゴンは、皆、力の信奉者なのです。私とて、例外ではありません。皆、楽しみにしているのですよ……」
声のトーンは変わらないように見えるが、どことなく笑っているように感じた。




