表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千年竜  作者: ikhisa
第三章
26/46

灰色の岩竜アルベスト-2

 リュウがダブルのスーツを着て、ブスッとした顔をしながら、馬車に揺られている。ハスキルが水辺に脱ぎ捨ててあったリュウの服を見て、

「こんなものを着た方を、アルベスト様にお会いさせることは出来ません。少し小さいかもしれませんが、私の替えの服がありますので、こちらをお召しください」

 と、言ってスーツ一式を渡してきたのだ。リュウの服は下水道で下水にまみれて、どれだけ洗っても酷い匂いを放っていたため、これまたド正論ではあった。

 (なんか俺……人から服を貰ってばかりだな……)

 とか思いつつ、馬車の正面に居るハスキルを見た。やはり彼の表情は何も変わらない。

(俺……この人……苦手かもしれない……)


 馬車が帝国の領域を抜けた先にある、大きな城の近くで止まった。

「こちらです。お降りください」

 そう言ってハスキルは先に降りると、馬車の扉を開けたまま、リュウを誘導した。リュウも馬車から降りた。リュウはその城を見上げる。

 フローゼの屋敷は華美であったが、アルベストの城は重厚と言っていいだろう。歴史のありそうな趣がある。今は晴れだが、雷の轟く雷雨なんかが似合いそうだ。

「アルベストって、貴族か何かなのでしょうか?」

 リュウが先導するハスキルに聞いた。ハスキルは歩きながら、その質問に答える。

「ええ、アルベスト様は由緒ある、ドラゴン族の貴族でいらっしゃられます。そして、300年を生きる、我々、岩竜たちの族長でもあられます」

 そんなことも知らんのか、と背中で言われている気がする。リュウは誰に見られずとも、少し気まずい。ドラゴン族は寿命が長いが、300年も生きている者は少ない。かなりの高齢だろう。

 石造りの廊下を通り、ある部屋の扉の前に着くと、ハスキルは振り返ってリュウを見た。

「こちらになります。何とぞ、失礼、の無いようにお願いいたします」

 ハスキルが、念を押すようにリュウに言うと、ドアを叩いた。

「リュウ様をお連れいたしました」

 中から返事が聞こえると、ハスキルが扉を開けて、リュウを誘導する。リュウはそれに従って、部屋に入っていった。


 部屋の奥には重厚な木製の机があり、その奥に重厚な男が、重厚な椅子に座っている。眼窩が深く、髪の毛はもうない。深い皺で見えないが、顔中に傷跡がある。肩幅が広く、がっしりした体格をしている。

「君がリュウかね。私がアルベストだ。よく、ここまでお越しいただいた」

 男はリュウに、そう言った。



「この場で立ち話というのもなんだ。もし良かったら、一緒に食事でもどうだね?」

 アルベストにこう提案されたリュウは、それを受けることにした。二人は城の客室で向かい合って食事をしている。

 目の前の料理を口にしながら、リュウはアルベストを見る。随分ともったいぶるが、そろそろリュウを呼びつけた要件を知りたい。アルベストが会話を切り出し始めた。

「リュウ、君がフローゼを喰ったのだね?」

 念押しするように聞いてくるアルベストを見て、リュウは一言だけ答える。

「……はい」

 アルベストがでは……と言う感じでリュウに聞く。

「では、フローゼの研究施設を君が受け継ぐ、という事で良いのかな?」

 リュウの頭に疑問符が浮かんだ。

「受け継ぐ?とはどういう意味なのでしょうか?」

 リュウは思ったことをそのまま言ってみた。リュウの質問に、アルベストが訝し気な顔をして答える。

「君はフローゼを喰らった。だから彼女の行っていた研究施設もまた、君に継承される。そういう意味だ」

 やはり分からない。リュウは質問に質問を重ねる。

「喰う、とそういった物も受け継ぐことになるのでしょうか?」

「ドラゴンがドラゴンを喰う、というのはそういう事だ。力だけでなく、喰らった者が持っていた財産や役割も一緒に喰らうこととなる。まあ、現実的な限度があるので、完全に全てが手に入るというワケでもないがね。喰うとは、喰われる側ももちろんだが、喰う方にも覚悟が必要なのだよ」

 アルベストは答えつつ、内心では驚愕していた。この事実はすなわち、一度も他のドラゴンを喰らった事のないリュウが、いきなり四竜の一角であるフローラを喰ったことを意味するからだ。

「そういう事でしたら、私が研究施設を引き継ぐことになりますね。反魂の研究を」

 随分と回りくどかったが、要するにアルベストが知りたいのはこういう事らしい。リュウは反魂の研究などやる気は全くない。だがここでは何となく、そう言っておいたほうが良い気がした。

「……ふむ」

 先回りで疑問に答えられたので、アルベストは少し考え込んだ。


 アルベストは目の前の皿にある肉をナイフで切り、フォークで口に運ぶ。そして目の前の男を見た。

 この男がフローゼの研究を続けられるなら、フローゼ亡きあとの役割をそのまま埋められるだろう。しかし、本当にそれが出来るのだろうか?もし出来ないのであれば、フローゼの研究施設を抑えるために、この男を喰う必要がある。


 リュウも肉をナイフで切り、フォークで口に運ぶ。そしてアルベストを見た。

 この男は格上だ。喰うにはキレさせる必要がある。時間を稼いで、何をすればキレるのかを、見つけなくてはいけない。


 二人とも互いを喰うことを考えながら、肉を頬張り咀嚼する。沈黙がその場を支配した。食器の奏でる、カチャカチャした音だけが、その場に鳴り響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ