共食い
巨大な爆発音で、リュウは目を覚ました。体が重い……だが、命は無事だったようだ。リュウはドラゴンの姿のまま、起き上がる。
(頭がフラフラする。今はどういった状況なんだろうか?)
何とか這いずりながら、下水道の滝壺から体をだす。
全身が怠い……それに……
腹が……へった……
大惨事となった下水道のホール。その瓦礫の中に、土のドームが出来ていた。そのドームが崩れて、中から白虎が出てきた。
「生きてる……」
白虎は呆然としながら、呟くように言った。
後ろを振り返ると、モグラが、両手を前に突き出したままの状態で、固まっている。目は見開いており、恐怖で歯がカチカチと鳴っている。とっさに二人をガードしたものの、その時の恐怖が今になって、やって来たようだ。
「ホント、命の恩人だよ……本当に助かった。ありがとう」
白虎はモグラに礼を言うと。ドームから出て、周りを見渡した。
(確か、出口側を抑えていた兵士が居たはずだ。彼らは、無事だろうか……)
フローゼのいた辺りに目を向ける。そこには翼膜と鱗の破片が散らばっていた。ただ、フローゼ本人の姿はない。
まさか、あんな自爆行為に及ぶとは思わなかった。それほどまでに追い詰めていたという、自覚が無かったのだ。
「大丈夫か?」
大爆発に驚いて、二人の隊員が駆けつけてきた。
「フローゼは逃げたのか?追うか?」
隊員が白虎に聞く。
「いや、一人は自分と一緒に、出口側に居た隊員の安否を確認してくれ。もう一人は上に戻って、フローゼの探索隊を組んでくれ。フローゼは軽傷じゃない。遠くまでは逃げられないはずだ」
白虎が指示を出した。
フローゼは変身を解いて、フラフラになりながら下水道を、壁に寄りかかるように歩きながら、出口を目指していた。
ひどい大怪我を負っている。手の指はいくつかが吹っ飛んでしまい、手入れされていた爪も、剥がれ落ちてしまっている。右耳が聞こえない。右目も見えていない。確認したくもないが、右目はもう二度と見えないだろう。あばらが何本か折れており、呼吸が辛い。内臓もいくつか駄目になっているかもしれない……。髪は血と汚泥で汚れ、ドレスも、もうボロボロだ。
何かに躓いて、フローゼは倒れた。
起き上がろうとするが、力が入らない。体を起こすのが精一杯だ。
ちくしょう、なんで私がこんな目に……なんで、こんなことに……
力が、入らない。歩けない……私は、こんなところで死ぬのか……嫌だ……死ぬのは……嫌だ……
フローゼの残された目から、涙が溢れてきた。
浅い呼吸を繰り返しながら、フローゼは血と汚泥でベトベトになった髪の間から、下水道の先を見つめる。何かが這いずるような音が、聞こえる方の耳から聞こえたのだ。近づいてくる……
暗闇からの、のそのそと這い寄ってくる影が見えた。
(あれは……リュウだ。生きていたのか……)
影はさらに近づいてくる。もう影ではない。残った目に、その姿が映し出された。その輪郭、口、体、全てがはっきりと分かる。
フローゼは恐怖した。
ああ、あの目。あの目は……知っている。アイツ……私を喰う気だ……
嫌だ……死にたくない……助けて……誰か……助けて……
フローゼの目の前に、リュウがその姿を現す。フローゼの目の前に、その顎が近づく。
フローゼは血と汚泥でベトベトになった髪の間から、その姿を見上げる。
怖い……でも……
フローゼがリュウを見上げる。
私を中途半端に誑かし、勝手に心の隙間に入り込み、出て行かない不届き者
裏切りに裏切りを重ねて私を痛めつけ、喰らおうとする男
なんという、酷い男なんだろうか……
ああ……でも……
フローゼは、最後の瞬間に、少女のように微笑んで、こう思った。
「私を喰うのが……リュウで……良かった……」
フローゼは目を閉じて、運命を受け入れる。
フローゼは、リュウに、喰われた!!!!!
フローゼが喰われたらしい。この話は、残った他の四竜にも伝わった。
誰が喰ったのだ?無名のドラゴンらしい。皆が噂をしている。
奴は敵か?味方か?いったい何者だ?
ドラゴン達を束ねていた、四竜の一角が落ちた。四竜で築いていた協定もまた、終わりを迎える。これは次のことを意味した。
「敵か、味方か分からない。だったら自分が強くなるしかない。強くなるには、喰うしかない!」
ドラゴン達の、共食いの時間が始まろうとしていた……




