強襲-1
着替え終わったフローゼは、部屋でぼーっとしている。何となく、何もする気にならない。
ぼーっとしていると、フローゼの部屋の扉を、慌ただしく叩く音が聞こえた。フローゼが面倒そうに返事をすると、部下が深刻な表情で報告に来た。
「屋敷が……不死隊に包囲されています。どこかしらから、アシが付いたようです」
フローゼの頭のモードが切り替わる。窓から外を覗くと、確かに外にそれらしき兵士たちが居る。それも……多い。
フローゼが眉間にシワを寄せながら考える。
(何故だ……どこからアシが付いた……これほどの兵を動かすのであれば、よほど確信に近い何かが無ければ動けないはず)
部下が捕まっても、フローゼに繋がる証拠が出ないようにしてあるし、重要任務に当るものには、尾行を巻くように徹底している。重要任務……
フローゼの頭に思い当たるフシが1つだけ浮かんだ。
(もしかしてリュウのヤツ、わざと尾行を巻かなかったのでは?)
リュウは焦燥していた。今の状況は既に組みあげられた上に出来たもので、何の変化も起きない。リュウにはチャンスはやってこない。
なので、静かな水面に石を投げ入れてでも、何かを起こす必要があった。投げ入れた石がどう影響して、どのような波紋を生むのかまでは、分からない。ただ、何か起きるかもしれない。何も持たないリュウにしてみれば、失うものなど何もない。
裏稼業の重要なポジションにつきつつあるリュウは、ある程度は不死隊からマークされる立場にある。自分が尾行されていることは、分かっていた。
フローゼには魔術を学んだ恩義があるので、裏切るには良心の呵責があった。ただ、今回の調達材料が、明らかに反魂の研究に関係するものであったことが、今になって行動を起こす引き金になった。
焦燥と嫌悪が、良心の留め金を弾いたのだ。
リュウはドラゴンだった。
「おのれ……リュウのヤツ、恩を仇で返しやがった!!!」
フローゼが赤髪を搔きむしりながら叫んだ。フローゼの脳裏に、リュウの顔が浮かぶ。リュウの裏切りに次ぐ裏切りで、フローゼは完全に怒り狂っていた。
とにかく脱出する必要があった。帝都内に住むフローゼの手下は隠密任務用であり、これほどの武装集団とやりあえるほどの武力は有していない。もはやこの拠点は放棄するしかない。
フローゼはそのままの恰好で、地下の隠し研究施設からつながる下水道に向かった。あそこからなら都市の外に脱出できる。外まで出たら、ドラゴンに変化して、飛んで逃げてしまえばいい。外に繋がる下水道は、リュウと戦ったあの地下ホールから辿れる。
フローゼが地下ホールに着いた。その刹那、人の気配を感じた。……誰かが……居る。
フローゼが目をやると、二人の男がそこにいた。一人は大柄な白い虎のような獣人。もう一人はモグラのような獣人。
白虎の方がフローゼを指さして言う。
「お前がフローゼだな。神妙に、お縄に着け!」
フローゼはそれを無視して、再びドラゴンに変化する。さっさと片づけて、逃げなければいけない。白虎も腰の剣を抜きながら、言う。
「……だよな。まあ良いよ。1回、言ってみたかっただけだから」
「だと、思ったよ」
モグラが一言だけ、突っ込んだ。




