魔術-3
リュウは何も言わずに、近くの机に荷物を置いた。フローゼはそれを見ながら考えている。
(今のところは何も表情に出ていない。コイツは助手に使えるだろうか……)
フローゼはリュウに、反魂の研究の手伝いをさせられるかどうかのチェックをするために、リュウにこの研究施設を見せつけた。ドラゴンにだって、義憤に燃えるものは存在する。リュウがそう言った類の連中かどうかを、判別する必要があった。
リュウは魔術に関しての才能があり、出来れば自分の右腕として使いたい。
(もう少し、試す必要があるな……)
「付いて来て」
フローゼはそう言うと、研究施設のさらに奥にある、下水道へと続く道を歩いて行った。リュウもそれに付いていく。リュウとしては、今の時点で、何かことを起こすわけにはいかない。表情を維持する必要がある。
(果たして、耐えられるだろうか……)
下水道に辿り着くと、フローゼは壁際に置いてあった、近くの樽に手を突っ込んで、中にあるものを引っ張り出した。
「まずは、これの処分をしてもらえる」
引っ張り出されたのは、人の手。リュウは、表情を何とかして維持する。フローゼは引っ張り出した手をさらに引き、樽を横倒しにしながら、全身を引っ張り出した。
引っ張り出されたのは、人魚の少女の遺体……高い魔力を持ち、この反魂の研究で用いるのに、最も適した素体。
リュウの顔が歪んだ。1000年前の廃屋でミレリアに行われた、あの記憶が、まざまざとフラッシュバックする。頭が真っ白になった。
虚ろな目をして、こと切れた人形のように動かない。人魚の少女の遺体が、あの時のミレリアとダブった。
これには、耐えられなかった……
リュウはブチ切れた。
リュウは海竜に変化すると、魔術で高圧水弾を作り、フローゼに襲い掛かる。岩すら穿つ水弾による強襲。
だが、フローゼはこの可能性を想定していたため、驚かない。バックステップをして距離を取る。フローゼ自身は魔術を使わない。下水道で炎なんかを使ったらどうなるか、分からないからだ。しかしどうすれば良いのかは、予め考えている。
フローゼは下水道の両端の側道を交互にジャンプしながら、下水道の奥へと進んでいく。リュウは下水道を泳ぎながら、それを追っていった。
二人は地下で複数の下水道が交差する、ドーム状の場所に出た。広く高い部屋で、屋敷の大広間以上の空間がある。そこに到達すると、フローゼは、自身もドラゴンに変化した。
フローゼ
四竜の一角。変化したその姿は、青い目をした、赤い飛竜。その体躯は、ヴォルスやオルドロスに匹敵する。
フローゼはその翼爪を、変化したリュウに振り下ろした。自身と同じサイズの爪に叩きつけられて、リュウは一撃のされた。フローゼはぐったりとしたリュウの尻尾を咥えると、交差した下水道の流れ落ちる先にある滝壺へ投げ込んだ。
キレたところで、元からある戦力差が埋まるわけでもない。相手はドラゴンを統べる四竜の一角。魔術を覚えた程度で、勝てる相手ではないのだ。
フローゼは屋敷に戻ると、使用人に湯の支度をするように伝えた。下水道で汚れた服を、さっさと脱ぎたいのだ。そのための服装だった。
(結局アイツは駄目だったか。使えるヤツだと思っていたのに……また新しい候補を探さなければ……)
フローゼは今後を考えて面倒に思いながら、自分の部屋に戻った。
部屋で服を脱ぎ、汚れた体をお湯で拭うと、次に着る服をクローゼットから取り出す。取り出したのは、上質な絹の、薄いクリーム色のドレス。
それを手に取った瞬間、突如として刺すような痛みが、フローゼの胸を襲った。フローゼはドレスを抱えたまま、その場にうずくまる。
顔は悔しさで歪み、目から一筋の涙が流れた。歯を食いしばった口は、一文字を描いている。
フローゼは、何が胸を襲っているのか、分かっている。しかし、彼女は、そんなものを、認めるわけにはいかないのだ。




