魔術-2
リュウの魔術の知識は、ますます高度化していく。もはやフローゼ配下の中で、彼に及ぶものは居ない。逆に、リュウへ魔術に関して聞きに来る者すら出て来るようになった。
フローゼもリュウを「使えるヤツ」だと認識し、重要な任務に割り当てる。この界隈の人間の間でも、リュウの名前は、徐々に知られていくようになっていった。
「ねえねえ、見て」
フローゼが、椅子に座って本を読んでいるリュウの前で、自慢げにクルクルと回っている。リュウは目線をフローゼに移した。どうやら新しいドレスを仕立てたらしい。上質な絹の、薄いクリーム色のドレス。皺の入り方が絶妙で、高級な素材感も相まって、シンプルでありながら存在感がある。色もフローゼの髪の色と合っていた。
「凄くよく似合っていますね。可愛いと思います」
リュウは思ったことを、そのまま口に出した。それを聞いたフローゼは、とても嬉しそうな顔で笑う。
リュウはそう言った後で、ふと、いつかどこかで、こんな会話をしたようなことを思い出した。
(いつだっただろうか……)
フローゼは、ぼんやりしているリュウの顔を見てから、真顔に戻った。
フローゼがリュウの後ろの棚に向かうと、棚に置いてあるメモ帳に何かを書き出した。そして、それを破り取ると、リュウの後ろから呼びかけた。
「……さて、次にお願いしたいのは、これよ」
そう言ってリュウの肩越しから手を伸ばして、リュウの目の前にメモ用紙をぶら下げる。リュウの鼻に、フローゼの香水の香りが漂う。
「メモの内容は全部覚えてね。覚えたら言って。これは燃やしちゃうから」
フローゼが言って見せたメモにあるのは、魔術の実験に用いられる材料。どれも非常に高価で、貴重な材料ばかりだ。
「……覚えましたが、これを手に入れるには、少し遠出になりそうです」
リュウは少しだけ顔を傾けて、フローゼを見つめて言った。フローゼはメモを魔術で燃やしながら、分かっているという感じで、リュウを見つめながら答える。
「ええ。調達先の情報は別で教える。時間がかかってもいいから、行ってきて」
リュウは帝都を歩いていた。調達する物があまりにも希少であるため、表裏の流通が交差する帝都でなければ、調達出来なかったからだ。ここでは様々なものが手に入る分、監視の目も厳しい。リュウはいつも以上に慎重に行動する必要があった。
現地に駐在するフローゼの手の者たちに、物品の手配をお願いしたり、直接買い付けに行ったりしている。
帝都の雑踏を歩きながら、リュウは悩んでいた。魔術を覚えることで、リュウの能力は飛躍的に上昇した。しかし、それ故に、以前見たミレリアとオルドロス達の戦闘のレベルの高さもまた、理解できるようになってしまった。自分と相手との距離が、どれほど遠いのかを。リュウの魔力は低くないが、あのレベルにはとても届かない。
リュウは今の仕事で、重要な立場に就きつつある。しかし、これは隠密任務的なもので、これ以上、技量を上げたところで、リュウの欲しい力にはならない。
(……このままではいけない)
リュウは焦燥しつつあった。何かを……しなければ……
「帰りました」
調達を終えたリュウが、荷物を持ってフローゼの屋敷に戻ってきた。
「お帰りー」
と、奥からフローゼの嬉しそうな声が聞こえる。奥から出てきたフローゼは、珍しく動きやすそうな服装をしていた。
フローゼはリュウの持っている荷物を見て言う。
「その荷物は持ったままでいいから、私について来て」
そういうと、フローゼは地下に降りて行った。地下室につくと、フローゼは壁の燭台を、何かの手順で操作する。すると、壁に隠し扉が現れた。
フローゼはその扉を開けて、さらに地下に降りていく。リュウは嫌な予感を感じながらも、フローゼに着いていった。
地下通路の最深部に到達した。そこにあるのはフローゼの秘密の研究所。フローゼの香水の香りと、何か据えたような臭いが混じり、リュウの鼻に匂ってくる。
フローゼは振り返ると、リュウを試すように聞いた。
「これが、何を研究しているのか、分かる?」
リュウには分かっていた。そもそも、今回、調達を頼まれた材料から、おおよその検討は付いていた。リュウの首筋に、悪寒が走る。
「反魂の研究ですね……これは禁忌のはずです……なぜこの研究を……」
「生命力を魔力に変換する」
これを聞いた時、多くの人は考えるだろう。だったら逆も出来るのではないか?と
他者の魔力を自身の生命力に変換することで、まるで不死のような体を得られるかもしれない。それこそ、ミレリアのように……
これは魔術において「反魂」と呼ばれており、研究そのものが禁忌とされている。どう考えても研究の過程と結果で、非人道的なことを行われるのが明白であったからだ。
この研究施設はまさに、その反魂の研究を行っている場所であった。
蝋燭の揺らぐ炎に照らされているフローゼは、不気味に微笑んでいる。
「言ったでしょ。私はミレリアに憧れているの。その長い寿命で魔術を作り出し、偉大なる成果を上げた。私も同じことをしたいの」
リュウは嫌な顔をしそうになる、自分の表情を何とか取り繕った。あまり他人の善悪に口を出すような性格ではないのだが、彼は、この研究に何が使われているのかを、知っている。なので嫌悪感が湧いてくる。
何も言わないリュウを、フローゼはその青い目で品定めするように見つめる。
「ミレリアだって、魔術を作り出す過程で、多くの犠牲を出した。私が同じことをして、何が悪いの?」
フローゼは、その青い目を見開いて言った。
フローゼはドラゴンだった。




