故郷-2
故郷-2
リュウは、占領した都市の海岸を歩いていた。
ヴォルスは仲間たちに、三日間の都市の略奪を許可していた。ヴォルス達にくっ付いて戦争に参加しているドラゴン達にとっては、これが目的の一つでもあり、今回激しく抵抗したこの都市に対しては罰という意味で行われた。
リュウは、それに参加する気にはならなかった。ただ「ミレリアの故郷である」という言葉を確かめるために、海岸沿いにやって来た。もしも「帝国のミレリア」が自分の知るミレリアであれば、きっとここに何かわかるものがあるかもしれない。
リュウは海沿いのあばら家を尋ねた。漁師はここまで略奪にくるとは思っていなかったので、最初は警戒した。ただリュウにそのつもりが無いことがわかると、安心して話を聞き始めた。
「この辺りがミレリアの故郷だと聞いたんだけど、何か知りませんか?」
漁師は答える。
「ええ、以前ここを訪れたミレリア様がそうおっしゃっていました。確かこの近くですね」
漁師は腰を上げると、その場所までリュウを案内してくれることになった。
「こちらです。子供のころはこの岩場で、3人で遊んでいたと、おっしゃっていましたね」
漁師は海岸の大岩を指さして言った。
リュウはその岩をまじまじを見つめた。1000年、波に打たれて形が変わったのだろう。・・・でも、この岩には見覚えがある。いつもリュウを呼ぶときに、ミレリアが座っていた、あの岩。あれに、間違いない。
リュウの目から涙が溢れてきた。リュウは確信することが出来た。
あれから・・・1000年が経ったんだ。俺は・・・1000年前から来たんだ。ミレリアは・・・俺が1000年前に一緒だった、あのミレリアなんだ。・・・だったら、俺はミレリアに会いに行きたい。1000年も待たせてしまったけど、俺は会いに行きたい。
・・・・
リュウは街にあった図書館に入り浸った。ドラゴンは図書館には興味が無かったらしく、特に荒らされている様子は無い。ミレリアの故郷の図書館という事もあり、ミレリアにまつわる本のコーナーが作られている。リュウはそこでミレリアに関する本を片っ端から読んだ。
千年帝国に居たミレリアには様々な二つ名があり、最近では「千年公」と呼ばれているらしい。600年ほど前に魔術を作り出し、以後は強力な魔女としても知られている。ミレリアの600年以降の記録は豊富にあるが、逆にそれ以前の記録はあまりない。皇帝に献上された直後は、何をしていたんだろうか・・・
リュウは本を膝の上に置きながら、ぼんやりと考えていた。会いに行くにしても、どうやって会いに行こう。なにせドラゴン族は、そのミレリアと戦争中なのだ。それに会ったとしてどうしよう・・・
「お前は!ミレリアを!守れなかっただろうが!!!」
ルシエラに言われて、胸に刺さったまま言葉が、リュウの頭を掠める。今のまま行っても、結局、以前と同じだろう。前のミレリアとオルドロス達の、凄まじいい戦闘を思い出す。俺はアレに全くついていけない。あそこに俺の居場所は無かった。これでは俺はミレリアを守れない。どうすればいい・・・
「強くなった俺たちが奪って、何が悪いんだ!」
今度は、ヴォルスの言葉を思い出した。そして、ピンときた。リュウは膝に本を置いたまま、無表情で、一人で呟いた。
「そうか・・・俺も強くなればいいのか。強くなって、俺がミレリアを奪い返せばいいのか。帝国からも、ドラゴンからも奪われないように、俺が奪い取ればいいんだ」
リュウの中で、何かの歯車が嚙み合った。
リュウはドラゴンだった。




