戦場-2
戦場-2
「ミレリア、お前は俺のモノだ!!!お前のすべてを奪って破壊してやる!お前のすべてを踏みにじってやる!」
この世のものとは思えないオルドロスの巨大な罵声が戦場に轟いた。
それを聞いたリュウは、眉をひそめた。突然何を言い出すんだ、アイツは・・・
オルドロスが喋っている間にも、戦場に現れた水柱はそのまま上空に上がっていく。天空に伸びた水柱は、巨大なレンズへとその姿を変えた。そのレンズは辺り一帯の太陽光を収束し、一筋の太い光線を作り出す。その光線がオルドロスを天空から襲った。
「ウゴォォォォォォォォォォ!!!」
その光をモロに受けたオルドロスは、巨大な悲鳴を上げた。
「余裕こいてベラベラ喋ってんじゃねーよ、あの馬鹿!」
ヴォルスが頭を抱えて叫んだ。リュウは少しだけ胸がスッとした。
オルドロスはなんとか高熱に耐えた。そして両足に力を込める。その溜めた力を開放して、一瞬で加速したかと思うと、矢のように城壁に突っ込んでいった。場所は先ほど杖を振っていた、ミレリアと思しき女性のいた辺りだ。だが何者かに阻まれたのか、オルドロスの動きが止まっている。その後、その何者かともみくちゃになったかと思うと、一緒になって城壁から落ちていった。
その間も天空の巨大レンズが形を変え続ける。巨大なレンズは複数のレンズとなり、収束した太陽光線を、戦場のドラゴン達に向かって照射し続ける。あたり一帯の太陽光が捻じ曲げられ、昼とも夜ともつかない、肉が焼けこげる匂いが充満する、この世の物とは思えない光景になりつつあった。
「引くぞ!撤退だ!」
ヴォルスがすぐさま判断を下した。強力な魔女だとは聞いていたが、まさか、これほどとは思わなかった。自分とオルドロスの二人掛りなら何とかなるかと思っていたのだが、どうやら見積が甘かったようだ。
それを聞いて、仲間のドラゴン達も逃げていく。ヴォルスの配下が聞く。
「オルドロスのやつはどうしますか?」
「アイツはほっといても大丈夫だろ」
ヴォルスはそう言うと、自分も戦場から立ち去るために、青い飛竜に変貌した。
リュウは城壁を見つめ続けている。ヴォルスは呆然としているリュウに言った。
「リュウ、お前も早く逃げろ!このままだとお前もローストだぞ!」
それでもリュウは動かない。しびれを切らしたヴォルスは、足でリュウを掴んで飛び立った。リュウはヴォルスに掴まれたまま呟いた。
「・・・ミレリア?君なのか・・・」
リュウは、小さくなっていくその姿をずっと見つめ続けていた・・・
・・・・
野営地に帰ると、負傷者が大量にいた。特に最後の太陽光による照射の被害が甚大だった。火傷ならまだいい方で、四肢が炭化してしまい、切り落とすしかない者も居る。
部下によって、無理やり戦場から連れ出されたオルドロスも大怪我をしていたが、一命は取り留めていた。とはいえ全身が包帯で巻かれており、しばらくは何も出来ないだろう。
ヴォルスは渋い顔をしている。しばらくは防御と回復に努めるしかないだろう。少なくとも「傾国の魔女」ことミレリアが居るうちは、悔しいが攻める気にはならない。
今回の戦いは、ドラゴン族の敗北となった。
・・・・
けが人の手当てに奔走していたリュウとルネは、一通りの仕事が終わった後で、いつものテントに居た。ルネがリュウの服を繕っている。戦場から逃げる時、ヴォルスに掴まれた拍子に、服が破れてしまったのだ。
「ミレリアを知っているか?知ってるよ。有名人だもの」
リュウの質問にルネは答えた。リュウの世間知らずにはいい加減に慣れてきたので、リュウに対しての突っ込みは無い。ルネは服を繕いながら続ける。
「帝国で1000年を生きる人魚。魔術を作り出した魔女。傾国の魔女と呼ばれるドラゴン族の宿敵。少し思いついただけでも、こんなにあるよ」
ルネの言ったことをリュウは心の中で反芻する。1000年?人魚?魔術?宿敵?思い当たる節と、まるで関係なさそうな節が交互に出てきて、さっぱりだ。特に1000年というのが物凄く引っ掛かる。考え込んでいるリュウに呟くように、ルネは続けた。
「あとは・・・腰まである長い黒髪が特徴の、物凄い美人で有名。会ったことのある人は、みんなその美貌を褒めたたえている、とか」
黒髪の美女・・・それは確かにリュウの知るミレリア像と一致する。皆がその美貌を称えるというのもそうだろう。リュウは頭をフル回転させた。
ルネは、なぜか唐突に、無性に腹が立ってきた。そもそも、なんで私は、コイツの服を繕ってやらなければいけないんだ。突然立ち上がったルネは、途中まで繕った服を、考え込んでいるリュウに投げつけた。
「あとは、自分でやって!」
そう言うと、ルネはテントから出て言った。
リュウは頭に服を載せたまま、考え続けていた。




