序章の終章-3
序章の終章-3
ミレリアが出ていく最終日は、凍り付くような寒い日だった。
厚手の服を身にまとったミレリアは、仲の良かった団員たとち、最後の別れをしていた。
「元気でね・・・頑張ってね」
明るい彼女には、多くの友人がいた。涙を流しながら友達を抱き合った。
一通りの友人たちと別れの挨拶を済ませたが、リュウとは会えていない。ミレリアはリュウの姿を探したが、ここには来ていない。最後に、一度だけ会いたかったのに・・・
最後に、ミレリアはルシエラに抱きついて言う。
「今までありがとう、ルシエラ。ルシエラは・・・私のお母さんみたいだった・・・」
ミレリアは、涙声で言った。
ルシエラの役目はミレリアを磨き上げ、その付加価値を最大限まで高めることにあった。そういった意味では、彼女は完璧な仕事をしたと言えるだろう。
ではルシエラにとって、ミレリアは商品でしかなかったのだろうか?そうでもない。ルシエラはミレリアを愛していた。矛盾するようだが、そういったことは、ままある。
「私も・・・アンタを娘だと思っていたよ・・・」
ルシエラも、涙声で答えた。
・・・・
部屋でふさぎ込んでいるリュウを、ルシエラが訪れた。ミレリアは、リュウへ渡してほしいと言って、手紙をルシエラに預けていた。そのミレリアからの手紙を、リュウに黙って渡した。別にルシエラは、破り捨ててしまっても良かった。そちらの方が、都合が良かっただろう。だが、何となく渡した。
一人になった部屋で、リュウはその手紙を広げた。
「あの廃屋の近くの広場で待ってます」
それだけが書かれていた。
・・・・
ミレリアは例の廃屋の近くの広場につくと、馬車を止めてもらった。馬を止めた御者に向かって、ミレリアがお願いをする。
「・・・ここで、少しだけ待ってもらえませんか?」
御者は言う。
「・・・少しだけですよ」
そう言うと、彼はミレリアを見つめた。美しい少女だ。御者はミレリアから目を離すと、被っていた帽子を深く下ろした。
御者は、この手の役割を担ったことが度々ある。宮殿に行く少女たちは皆美しい。特にこの子はとびっきりだ。だから、何を待ちたいのかは、何となく分かった。
よくある話だ。いつもの・・・よくある話だ・・・
・・・・
リュウは凍える空気を切り裂くように広場に向かって走っていく。大河沿いの廃屋近くの広場へ向かう橋に、到着した瞬間だった。
「おい!」
という声が聞こえた。リュウが立ち止ってその方向を振り返った瞬間、リュウは突然河に突き飛ばされた。突き飛ばされながら、相手の方向を見た。どこかで見た顔だ。以前、ミレリアを襲った、馬鹿息子たち。いつから狙っていたんだろうか・・・
リュウは凍える大河に落ちて行った。馬鹿息子は唾をその方向に吐き掛けると、その場から離れていった。
リュウは突如として凍える河に落ちたことで、急激に体温が低下した。不味いと思って海竜にその姿を変えたが、体温の低下が止まらない。リュウは猛烈に眠くなっていく。
(駄目だ・・・ミレリアの元に・・・行かなきゃ・・・)
擦れていく思考の中、それだけを思っていた。だが、それも、いずれ消えていった・・・
・・・・
「・・・もう時間だよ。これ以上は待てない」
御者はそういうと、馬車を出す準備を始めた。
ミレリアは「分かりました」とだけ言うと、馬車の窓から、外を見つめた。
来なかったのか、来れなかったのかは、分からない。でも、最後に一度だけ、会いたかったな・・・
子供のころからの、リュウと一緒だった時の記憶を思い出しながら、ミレリアは馬車に揺られていった。
https://ncode.syosetu.com/s6088j/
ここから先は、一度ミレリアの物語に分岐していただいた方が楽しめると思います。
もしよろしければ、リンク先の千年公シリーズを先にどうぞ。




