リュウとミレリア-1
リュウとミレリア-1
幼い少女の高い声が辺りに響く。
「おーい、リュウー。早く起きろー」
その声は、海沿いのあばら家で寝ていた少年、リュウの耳に届く。目をこすりながらリュウは目を覚ます。
「わかったよー、今行くよー」
返事をすると、リュウはいそいそと立ち上がった。早く起きないと何をされるかわからない。以前は蟹に鼻を挟まれてひどい目にあった。
近くに転がっているボロ服を手につかんで、リュウはあばら家から出た。
あばら家から出て、すぐ近くにある海岸の大岩に目をやると、短い黒髪を持つ人魚の少女が、リュウに向けて手を振っている。ミレリアだ。ミレリアはリュウを見ると、こっちにこいといわんばかりに、尻尾でペチペチと岩肌を叩き始めた。
「ハイハイ、今行きまーす」
リュウは少し駆け足でミレリアに向かっていく。
「今日は何をして遊ぶの?」
リュウがミレリアに尋ねた。決定権はいつもミレリアにあるので、最初に聞いておいた方が早い。
「えーと、今日はね。あ、その前にフィルはどこにいるの?ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
フィルはリュウの父も働いている、ここいらの一帯の漁師をまとめる、網元の息子だ。親の上下関係はおいておいて、ここではミレリアの舎弟二号という扱いである。
「なんか高名な学者さんが家に来ているから、勉強を付けてもらうことになったとか言ってたよ」
特に何もないこの漁村には、お偉いさんが来ても泊まるための宿なんて用意されていない。大抵は裕福な網元の客人、という形で滞在することになる。
「そうそう、それよ、それ。私はその学者さんに会ってみたいのよ!」
ミレリアが興奮気味に言った。なんでまた、学者さんなんかに用事があるんだろうか?
「でもお偉いさんがいるのに、勝手に押しかけてもいいのかな?」
リュウは極めて常識的なことを聞いた。
「大丈夫、大丈夫!」
ミレリアは自信満々に答えた。多分、根拠はない。駄目だったら俺も怒られるんだよな、と思いつつもリュウは特に反論をしない。
「わかったよ、じゃあ、行こう」
リュウは持っていた服をミレリアに押し付けて答えた。サンキュー、と言いながらミレリアは尻尾を足に変えてながら受け取った服を着る。
まあ、たぶん大丈夫だろう。ミレリアの言うことはいつも正しい。




