表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
頭の中でレディは殺された  作者: 華矢
一章 容疑者の処刑
8/27

まだ終わりじゃない


──────





「(勇者)さん起きて!緊急事態...です!」

 甲高い声が、眠りの淵を妨げた。

今日は休日だと言うのに、こんな朝早くに、一体何だと言うのだ?頭がぼんやりと霞み、瞼が重い。声の主は……誰だ?



「....なに?...誰?」


「シンです!早く起きて直ぐにイマジナリー世界に来て下さい!」


 シンの声は切羽詰まり、空気が戦慄いているようだった。





「なんでだ?」



寝ぼけていた。

当然だろう。

昨日の夜遅くに起きたあの出来事が頭を離れず、ろくに寝れなかったのだ。寝ぼけるのも無理はない。




「ニアさんが殺されたんです」


「は!?どういう事だ?」



 一瞬で眠気が吹っ飛び、血液が喉元で跳ねた。



「今朝、食事処でニアさんの遺体を五郎さんが発見したんです!イチカさんと同じ殺害方法で」




「なんて事だ!サブじゃなかったのか!?」


「サブさんじゃ、無かったんです...」




嘘だろ........。冗談じゃない。


じゃあ、俺は無実のサブをこの手で、殺したって言うのか?

イチカを殺した真犯人と、俺は同じ罪を犯したっていうのか?いや、そんな筈は無い。

サブは確かに怪しかった。

あの状況で、誰だってそう思う筈だ。



「とりあえず、こっちに来れますか?状況を見てもらいたいんです。」



シンの言葉に、俺は重い身体を引きずり、イマジナリーへと向かった。

食事処に足を踏み込れた瞬間、息の根が止まった。



そこには、ニアの遺体がイチカと同じ無惨な姿が横たわっていた。

血の匂いが充満して、殺人現場のような..いや、これは殺人現場だ。

ニアの首元が少し腫れ上がっていて不自然に感じた。


部屋の隅では、五郎が膝を抱え、萎縮した目で床を呆然と見つめていた。

いつも陽気で騒がしい五郎とは別人のようだった。



「第一発見者は五郎って言ったな?」



 俺はシンの方を振り返り、声を絞り出した。五郎は尚、震えている。



「だが、五郎が人を殺せるとは思えない。となると、シン、お前か?」



「ち...違うよ!もう一人怪しい人物がいますよね?」



 シンが挑戦的だが、シンか五郎しかこの場にいない。

五郎の知能の低さで人殺しなんてありえない。

ならば、シンしか殺人犯の犯人は残っていないことになる。




「五郎とシンしか居ないだろ!...........あ」



 その瞬間、頭に関光が走った。俺のその反応をシンは見逃さなかった。




「そうです!ロンさんです。おかしいと思いませんか?都合よく冬眠してるなんて...。今から部屋を確認すべきです。本当に冬眠をしているのか、確かめるんです!」




「確かにそうだな。その方が手っ取り早い。」


 俺はシンに頷き、決意を固めた。

ロン……彼女がこの一連の事件の鍵を握っているのか?






俺、シン、五郎の三人は、ロンの部屋の前に集まった。

ドアに手をかけると、ドアノブの感触が掌に伝わる。

だが、鍵がかかっており、ドアは微動だにしない。



「やはり、鍵がかかっておるな」



五郎が低い声で言った。

いつも軽口を叩く彼の声に、今日は暗い影がある気がする。


「ロン!いるんだろ? 開けるぞ。」



俺はドアを挙で叩き、蹴りを入れた。


だが、部屋の中からは物音一つ聞こえない。

まるでそこに生命が存在しないかのような、異様な静けさだな。



「管理室から鍵を取ってくる。ここで待ってろ、誰もドアに触れるな。五郎をちゃんと見張ってろ!シン」



「はい」



シンの返事は少しぎこちなかった。




管理室に急ぎ、「666」の相性番号を入力する。

焦る心を抑えるのに必死だった。



鍵を手に入れ、急いでドアの前に戻る。



「開けるぞ」



心臓がこれまでに無いくらい音を立てている。

ゆっくりと鍵を差し込み、ドアを押し開けた瞬間、予想だにしない光景が目に飛び込んできた。





この二日間で、俺は四人の死体を見てしまった。

 そう、ロンは首吊り自殺をしていたのだ。

一歩後ずさり、思わずシンと五郎の顔を見た。二人の目は、俺と同じ恐怖と混乱を映し出していた。

得体の知れない腐臭が空気を満たす。


「ロンさん........」


シンが呟き、声はか細く震えていた。


普通なら、これで全てが解決したように思える。

ロンがイチカとニアを殺し、罪の重さに耐えかねてロンが自殺した――そう考えるのが自然だ。



だが、なぜか胸の奥に拭いきれぬ違和感が広がる。




ロンのちっこい身体が、天井から垂れるロープに揺られていた。



青白い顔で、虚ろに半開きになった目、紫色を帯びた唇。

そこに、生きている人間の気配はなかった。

五郎が突然、床を挙で叩きつけた。

声にならない叫びが、彼の喉から迸る。



「なぜだ...何故こんなことに....」



いつも馬鹿で陽気な五郎とは思えない反応だ。




「二人共落ち着くんだ。まずは状況を確認するんだ。」


 俺は声を張り上げ、動揺を押し殺した。

だが、心の底では、ロンの死がこの事件の終わりではないとが脳内で反芻している。


呼吸を整え自分も落ち着くよう深呼吸をした。





「おい!皆の者...このロープ何か変だぞ」



気づくと五郎がロンの首の巻かれたロープに近づき、じっと観察していた。


「何が変なんだよ」


俺とシンは五郎の横に駆け寄った。

五郎が指差すロープの結び目は、素人が適当に作ったものとは思えない程複雑で、しっかりと締まっていた。



だが、それ以上に異常だったのは、ロンの首に注目すると赤い痕があったのだ。

ロープで擦れた痕とは別に、細い線のような痕が首の両側に円のように走っていた。



「こ...これ...。誰かに締められた痕だ....」



シンは力ない声で言った。

ロンの首に残る赤黒い痣を指さすシンの指先は、微かに震えている。



「大変だ!これは自殺じゃないのかもしれないぞ?ロープで吊るされる前に、誰かに首を締められた可能性があるぞ!」



五郎が声を荒げ、勢いよく立ち上がった。

その目は血走り、普段の軽薄な態度とはかけ離れた激情に満ちていた。


「なっ……殺害を自殺に隠蔽した人物が、この中にいるってことですか?」


 二人は交互に睨みつけ合い、声が自然と荒々しくなっていた。

五郎はシンを酷く睨みつけ、シンはその視線を冷たく受け流していた。




「その通り。シンか五郎どちらかの二人が犯人ってことになる。」



俺の一言で空気が火花を散らすような緊張が部屋全体を支配した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ