第二被害者
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誰かの悲鳴がぼくの眠りを妨げるようにぼくの耳に届いた。
その悲鳴が誰の声なのか悟ったぼくは、恐怖に駆られ、思わず耳を塞いでしまう。
罪悪感があった。
それは、最後にサブさんが言っていた言葉が忘れられないのだ。
(僕が殺された後ロンちゃんの部屋を確認して欲しい)
あれは、ロンさんが犯人だと、暗に示していたのだろうか?
確かにこのタイミングで冬眠を続けるロンさんの行動は不自然かもしれない。
だが、確たる証拠は無い。
サブさんは、犯行直前に「不愉快な音」を聞いたと言っていた。
サブさんの隣の部屋であるぼくは、そんな音など一切耳にしていない。
いくら深い眠りについていたとしても、お皿が割れるような音がしたのなら、流石のぼくも目を覚ます筈だと思う....。
それに、食事処でイチカさんの遺体を発見した第一発見者であるサブさんは、ぼくだけではなく、皆にとっても怪しい存在だった。
しかし、サブさんが死んでしまった今、朝起こしてくれる人は居なくなってしまった。
誰がぼくを起こしてくれるのかな。
いや、着目点はそこでは無いだろう。
ぼくは、やるせない思いを背負いながら、瞼を閉じ、眠りへと落ちていった。
だが、眠気が覚めるような、ドンドンという音がドアを叩きつけた。
「シン殿いるか!?起きろ!!大変なことになったんだっっ!」
五郎さんの荒々しい声が、息を切らせながらぼくの夢にまで入り込んできた。
何事かと思いながら眠い目を無理矢理擦りドアを開けると、そこには苦虫を噛み潰したような顔をして五郎さんがドアの前に立っていた。
額には汗が滲み、肩が激しく上下していた。
「大変だ...食事処でまた殺人が起きた!」
「....!?だ、誰が殺されたの!?」
「ニア殿だ...!」
嘘....。ニアさんが!?背筋が凍りつき、頭の中が真っ白になる。
イチカさんを殺害した人と同一人物で間違いない。
なら、イチカさんを殺したのは、サブさんじゃ無かったの!?
「(勇者)さんには言った?」
「まだ伝えておらぬ...」
五郎さんの声はなにかに怯えているようだった。
「なんで伝えないんですか?」
「拙者が、第一発見者だからだ!サブ殿の二の舞になるのが怖い。疑われて、処刑されるなんて耐えられん」
「...大丈夫。だれも五郎さんが殺人ができるなんて思ってないから。」
頭の中で、サブさんの言っていた言葉が何度も反芻した。
ロンさん...まさか本当にロンさんが、イチカさんとニアさんを殺害したの?
もしそうなら、今すぐロンさんの部屋に踏み込むべきだ。
でも、その前に(勇者)さんを現実世界から起こして伝えねばならない。
勝手に行動を起こすと(勇者)さんが猛獣のように暴れてしまうし、最悪の場合ぼくも処刑になるかもしれない。
「ぼくが(勇者)さんを起こして伝えて来ますよ」
「頼む……処刑だけはされたくないのだ!勘弁してくれシン殿」
「......だから誰も五郎さんの頭脳で人殺しができるなんて思わないよ。じゃあ、ぼくは伝えに行ってくるので」
「....」
五郎さんは、ストレートなぼくの物言いに呆然と立ち尽くしていた。
酷くショックを受けているような...。
しかし、ぼくはお構い無しにその場を去った。