罪の償い
そしてお兄ちゃんは僕の肩に手を置いて、こっちに来いと告げた。
連れてこられたのは、誰も使っていない201号室。
何も無い質素な部屋に、椅子だけがポツンと置かれている。
僕はお兄ちゃんの命令じみた指示でそこに座らされた。
処刑とは何か、見た事ない僕は処刑がどのようなものか想像がつかなかった。
ただ、一つだけ願うのは、
───殺すなら一瞬で殺して欲しい。
お兄ちゃんの握られたナイフが、銀色に発光した。
凶器を目の前に、恐怖が身体を硬直させた。
死の恐怖が僕を支配した。
だが、僕はその時一瞬思った。
(逃げられるかもしれない)
イマジナリー世界の範囲を抜ければ、暗闇が広まっている。
迷うかもしれないけれど、逃げ切れる可能性は大いにある。
迷っている暇などなく、僕は椅子から立ち上がった。
「座れと言っただろ!?立ち上がるな」
そんな僕にお兄ちゃんは一際大きい声で一喝した。
一瞬の隙を狙い、ドアノブにしがみつき、力の限り回した。
ところが、ガチャガチャと音が反響し、ドアはビクともしなかった。
「鍵...!?」
背後からゆっくりと足音が近づいてきた。
床がキシキシと音を立てる度に心臓が歪んでいった。
逃げ場は無い。
「逃げても無駄だよ。罪を償え」
「何回も言うけど、僕は無実なんだ。犯人はロンちゃんだ!」
「戯言を言うな」
僕は諦めずに、窓へと駆け寄った。
窓に鍵自体は掛かっておらず、僕は窓を割って逃げようとした。
2階から飛び降りても、幸い怪我で済むだろう。
だが、割れなかった。
ここはお兄ちゃんの空想世界でもあるイマジナリー世界なのだ。
お兄ちゃんが建てたこのマンションの窓は普通と違い硬いのだ。
と言うか、元々開かない使用になっていた。
(どうしよう...どうしよう...どうしよう)
気配は既に後ろに迫っていた。
逃げ場はどこにもなく、僕は諦めて振り返った。
お兄ちゃんは容赦なくナイフを僕に突き立てた。
熱い痛みが腹部を伝い、僕の身体は完全に硬直してしまって、動くことが出来なかった。
「罪を償うんだ、サブ。」
そう言ってお兄ちゃんは素早い速度で僕の胸部にナイフを突き刺した。
「ぁ"あ"ぁぁあああああぁぁ」
部屋は静寂に包まれた。