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頭の中でレディは殺された  作者: 華矢
一章 容疑者の処刑
5/27

サブの弁解

─── 3 ───







ノイズのような音が聞こえた。

今まで聞いたことのない、不快な音だった。

それは、災害の前触れを告げる低音波のように、僕の心をざわつかせた。

音の正体を確かめようと一歩踏み出そうとしたが、恐怖が足を縮ませ、前に進めなかった。


───ガシャン


突然、お皿が割れるような...不穏な音が僕の耳に聞こえた。

その音は食事処の方角から聞こえた。

誰か怪我をしたかもしれないと感じだ僕は、いてもたってもいられず、食事処へ駆けつけた。




まず、割れたお皿を確認しようとお皿を探すが、見つかったのは、キッチンの洗い桶の中に誰かが食べ終わった後のお皿しか置かれていなかった。

ミートソースの汚れが少々残っているのが気になった。

荒い食べ残しからして、恐らくニアが朝早くに食事処でミートソースパスタを食べたのだろう。

お皿は割れている形跡があるのに、誰も居ないこの部屋が不思議でしょうがなかった。

誰かが、割れた破片を踏んでしまって、怪我をしてしまう恐れがあるかもしれない。

そう思った僕は、綺麗に割れたお皿を掃除した。



食事処に来たのだから、何も無かったとは言えついでに自分もそのまま食事をした。

ふと、足元になにか異様なものが目に入った。

最初はミートソースがこぼれているのかと思った。

だが、近づくにつれ、僕の心臓は不規則なリズムを刻み始めたのだ。



それはミートソースでは無く、血...?だった。

赤黒く、少し粘り気のある液体が床一面に広がっている。

そこに横たわっていたのはイチカお姉ちゃんの死体かもしれなかったのだ。

かもしれないと言うのは、顔はグチャグチャに歪んでいて、目はえぐり取られていて、一見誰だか分からなかったのだ。


だが、足の方に僕とお兄ちゃんで選んだ誕生日プレゼントのミサンガが身につけられていて、イチカお姉ちゃんなのだと確信した。


いつも微笑みかけてくれるお姉ちゃん的存在の女性が、こんな悲惨な状態になり血だらけになっている姿に落胆してしまった。

僕は震える足で真っ先に皆に報告をした。




「イチカお姉ちゃんが食事処で何者かに殺されたんだ!!」



しかし、第一発見者である事や、今朝の異様な音が聞こえたのは僕だけだったことから疑いの目を全員から向けられてしまった。



「証拠は揃ってるんだ」



僕に尖った目線を向けたお兄ちゃんの目は見たことの無い怖さをしていた。

周囲を見渡すとその目付きをしていたのはお兄ちゃんだけでは無かった。

ここにいる全員が僕のことを哀れみと、殺人犯を見るような視線で見ていた。

恐怖で声が掠れてくるのが自分でもよく分かった。


「僕...やってないってば!」



もはやこの声は誰の耳にも届かなかった。

僕はやってないと繰り返し言うことしか出来ない自分を惨めに思う。

そして、数時間後に投票で、死刑が下されたのだ。

最初は何かの冗談かと思った。

お兄ちゃんがイチカお姉ちゃんをどれだけ愛していたか僕は知っている。

だから、頭の整理がつかず混乱して、そう言っているのだと...。

そう信じたかった。けど、お兄ちゃんの顔は本気だった。



「皆は部屋に戻れ、サブだけ残れ」




お兄ちゃんの口調は先程と違い少し落ち着いた口調になっていたが、僕に対する底知れぬ殺意を向けられていた。



じっと僕を見つめるその瞳に、僕は死を覚悟したのだ。

犯行を認めたわけではない、ただいくら抗っても無駄だと判断したのだ。




誰もが自室に戻って行くそんな中、シンくんだけがその場に留まった。

元を正せば、シンくんが「サブさんが怪しいと思う」と、発現したことで僕の疑いはますます深まったのだ。

普段、感情を表に出さないシンくんが、僕を犯人だと、名指ししたのだ。

今もきっと僕の事を犯人だと思っているに違いない。

だが、今こうして自室に戻らないのは、お別れの挨拶を言うためだだろうか。




でも、少し経ってもシンくんは何も言って来なかった。



では、何のために此処にいるのだろう。

もしかすると、僕からの最後の言葉を待っているのかもしれない。


とはいえ、自分を犯人だと思っている人に何を言えばいいか分からなかった。


(僕は犯人じゃない)


そんな言葉を言っても何も届かないだろう。

なら、犯人だと思う人と理由を伝えるのはどうだろうか。


イチカお姉ちゃんを殺したのは自分では無い事は、一番僕が分かっている。

そして、今も犯人は平気でイマジナリー世界に居るとなると非常に危険では?

このまま犯人を野放しにしておくと、次は誰かが犠牲になる。

一度殺した人は、二度殺すと聞く。

僕の中で、一番怪しい人物は実は絞られている。



まず、最も疑う余地がないのは、五郎くんだ。 次に、黒に近い灰色の人物は、ニアとシンくん。

正直僕はニアは苦手だ。

自分の事しか考えず、このイマジナリーの世界を仕切っているのも全てニアだった。

ニアが犯人であって欲しいという願望もあるが、犯人では無さそうだった。

なぜそう思ったのかは憶測に過ぎないけど、ニアは僕達と違って少し頭の回転が早いのだ。

そんなニアが朝早起きをして食事処へ食事ついでに殺人をするだろうか?

もし、ニアが犯人ならもっと巧妙にアリバイを用意する筈だ。

わざわざ怪しまれるような事はしないだろう。個人的な見解では、ニアは犯人ではない気がする。





次にシンくんも犯人では無さそうだった。

徹底的なアリバイは無いけど、毎回僕達は一緒に食事処で朝食を食べるというお決まりのルールがあるのだ。

それには理由があり、シンくんは過眠症なのだ。

自力で起きることが出来ないので、毎回僕が起こして一緒に食事処で朝食を食べている。

シンくんは一人で起きられない、食べ終わるとすぐ眠り、昼にまた起こし、夜も起こす。これの繰り返しだった。

とてもじゃないけど、シンくんが朝苦手な早起きをして殺人するなんて考えられなかった。





そして、もっとも黒に近いと思ってるのが冬眠中であるロンちゃんだ。

はっきりと黒とは断言出来ない。

けど、ロンちゃんはお兄ちゃんの事が恋愛的な意味で好意があり、イチカお姉ちゃんに嫉妬心を抱いていたのは見てわかっていた。

よく考えてみれば、イチカお姉ちゃんとロンちゃんが二人で会話をしているところは今まで見た事があまりない。

そんなロンちゃんが都合よく冬眠をしているのは、あまりにも出来すぎている気がする。

ロンちゃんは、本当に冬眠をしているのだろうか?部屋で何をしているのか...。

考えれば考える程、疑惑が深まっていく。




僕の見解では、ロンちゃんが怪しい。



この思いを最後にシンくんに伝えれば、何か変わるかもしれない。

証拠は何もない。

だけど、僕の容疑も証拠は無い。

このイマジナリー世界に、防犯カメラや警察官もいない限り、確たる証拠は存在しない。





僕はお兄ちゃんに聞こえないように小声でシンくんに耳打ちをした。



「僕が処刑された後、ロンちゃんの部屋を確認して欲しい」




ロンちゃんの部屋に行けば、冬眠しているかどうかは、一目瞭然だ。

シンくんは動揺していたが、軽く頷いていた。

お兄ちゃんに、部屋に戻れと怒られたシンくんは震える足で戻って行った。

その背中は、まるで重い秘密を抱えたように小さかった。

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