疑心暗鬼
こればかりはサブを救いようがなかった。
まさか、サブがイチカに恨みがあって、あのような悲惨な殺し方をしたなんて現実味が無いが、こんなにボロが出てしまったならどうしようも無い。
「真犯人はサブだと思う人は手を上げろ」
俺の言葉に、ニアとシンは同時に手を上げた。それを見た五郎も慌ててそれに続く。
サブだけが、呆然と立ち尽くしていた。
「よってサブを死刑とする。」
四人は声を合わせて「え?」と、拍子抜けた声を上げた。
だが、俺の意思は固かった。
「当然だろ?罪の償いはするべきだ。それに、イチカ殺人の仕方はあまりにも残酷過ぎだ」
サブは俺の一言に全身を震わせていた。
汗ばんだ額、震える指先に、虚ろな目をしている。
まるで罪の重さを耐えかねているように見て取れる。
俺の声は低く、静かだが目線は一喝するような炎に満ちている。
「サブ。お前の罪は許されない」
「僕じゃない……」サブは小声で呟き、ひれ伏して嗚咽を漏らした。
サブが犯人の筈だ...。確たる証拠は無いが、皆の証言は一致してしまっている。
全員がサブを犯人だと手を挙げているのだ。
だが、心のどこかで少しだけ引っかかるものがあった。
全てを諦めかけたかのようなサブの瞳に俺の勘が惑わされる。
俺はその場にいた訳では無かったから、サブが言う、音がどのような音に聞こえたかは分からない。
少なくとも食事処から音がしたのなら、両隣りの部屋であるシンとニアが気づくだろう。
ニアが偽りを述べる可能性はあっても、シンが偽るなど考えにくい。
だから、真犯人はサブだ。その方が全て収まる。
殺人犯をイマジナリー世界に置いとく事は出来ない。
今夜中に始末しなくてはならなかった。
───そして、イチカへの罪の償いを。
「皆は部屋に戻れ。サブだけ残れ。」
ニアと五郎は素直に部屋に戻った。
シンとサブだけがここに残ったのだ。
「サブさんごめんなさい....でも...サブさんがどうしても怪しく感じちゃって...」
サブは無言でシンに近づき、何かを耳打ちした。
その言葉は聞こえなかったが、シンの動揺は伝わってきた。
死を覚悟した遺言だろうか?でも、無駄な行動は許さない。
「何してんだ!シン部屋にもどってろ!」
「....ごめんなさい。」
シンは小走りに部屋に戻った。
親友が処刑されるのだから当然の反応だろう。
「最後に言い残すことはあるか?」
「僕は無実って事しか言うことは無いよ」
「最後まで容疑を否認するってことだな」
サブの瞳は死を覚悟していた。