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頭の中でレディは殺された  作者: 華矢
一章 容疑者の処刑
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ノイズのような音が聞こえて

自宅に帰宅し、手を洗うことも忘れ、直ちにベッドへ身を投げ出した。


いつもならゲームに没頭する時間を、今夜は「イマジナリー」に全てを捧げるしかなかった。

無駄な行動は許されない。

何故なら彼女の殺人が起きてしまった緊急事態なのだから。



俺の心の全てだったイチカが、血に染まり、もう目は覚ますことは無い。

犯人は、絶対に許してはならない。

ニアとサブの口論はまだ続いていた。

少し意外だったのは、そこに普段無口で臆病なシンまでがその議論に加わっていた事だ。

シンは普段影のような静かさで、言葉よりも視線で語るタイプだった。

だが、今シンの瞳には奇妙な光が宿っているように見える。



そもそも、イチカが殺されたにも関わらず、平然としているようなやつが俺には信じられないし怪しくて仕方がない。

だから、シンが議論に加わっている事で少し怪しさが薄れた。



しかし、今の俺の目には全員が怪しく映る。

誰もがイチカを奪った犯人に見えて仕方がない。

だが、五郎だけは例外だ。

彼は犯人じゃない気がする。いや、絶対違う気がする。

そう断言してもいいだろう。


アリバイがあるわけではないが、五郎の知能ではこんな手の込んだ狡猾な殺人を企てる事は不可能に近かった。

彼の頭は小学生以下の単純さなのだから。



「.....ぼくの..意見なんだけどさ、サブさんが怪しいと...思います。」

突如、シンが口を開いた。その声は震えていたが、どこか決意に満ちていた。

俺は驚いた。シンが自ら意見を述べるなんて、初めての光景だ。


彼の言葉に場は一気に張り詰めた空気となった。



「え、シンくんまでそんな事言うの?僕はただ第一発見者ってだけなのに...?」



サブの声は震え、顔は青ざめていた。

当然だ。サブとシンは一番の仲だから、そんなシンに犯人だと思うとストレートに言われたら誰だって傷つく筈だ。


サブはいつも、誰とでも打ち解けるユーモラスな存在で、親しみやすさも感じていた。

イチカの誕生日には、一緒に誕生日プレゼントを真摯に考えてくれたのは紛れもなくサブだった。

そんな好意的なサブを疑うシンはどういう意図があるのだろうか。

とは言え、正直に言えば、俺もサブが一番怪しいと感じていた。



「シン、何故サブが怪しいと思う?なにか理由があるんだろ?」



俺の問いに、シンは目を伏せ、申し訳なさそうに語り始めた。



「うん...サブさんはいつもぼくを起こしてくれて、一緒に食事処でご飯を食べるんだ...。なのに今日に限って早起きを理由に一人で食事処に行って殺人の第一発見者なのは...流石のぼくも、怪しいと思いました……。」




その言葉にサブは言葉を失っていた。

ショックで立ち尽くす彼の姿は、まるで魂が抜けた亡魂のようだった。


「ほーう、サブ。それはかなり怪しいな、どういう事なのか説明してくれよ」


「信じて貰えないかもしれないけど、食事処から不快な「音」がして目が覚めたんだよ。なんの音かと思って、見に行ったら..イチカお姉ちゃんが....」


サブの今の発言は自分が犯人です、と言ったような物だった。

その場の空気は一瞬にして凍りついた。



そんな中、五郎だけが状況を理解していないようだった。

五郎は無邪気に、ニヤニヤしながらニアを見た。


「なら、ニア殿が犯人ってことか?真犯人はニア殿できまりってわけだな!」



「五郎様黙った方がよろしいかと。どう考えても、犯人は...たった今サブ様で決定致しましたわ」



「え?僕が犯人って決定した?何を言ってるの?」


わざとらしく溜息を吐いたニアは丁寧に説明した。



「食事処から、103号室まで音がしたんですってね?102号室であるわたくしは、何も聞こえませんでしたがね」



ニアはサブを小馬鹿にするように嘲笑した。

そんなニアの言葉に付け加えたのはシンだ。


「....ぼくも104号室まで音は聞こえなかった...」


 全員の視線が五郎に集まった。


「拙者も、聞こえなかった気がするな。なんで音が聞こえただけでサブ殿が犯人にされるんだ?」


ニアはまた、呆れたように溜息をつき、丁寧に説明を補足した。



「食事処から1番近いのは106号室なのに何故、食事処から遠い部屋に住むサブ様だけが、物音が聞こえる事が出来たのでしょうか?他にも不可解なことはあります。何故、物音が聞こえた=食事処と即座に結びつけたのか、その理由もお聞かせくださいな」



サブの顔色は一瞬で変わった。

絶望の色が彼の瞳に広がるのが、はっきりと見えた。



「みんなで僕を騙してるの?あの音が聞こえなかったの?例え寝てたとしてもあの音は聞こえる筈だよ。食事処だと思ったのはお皿が割れるような音もした気がしたからだよ」



「あらサブ様、破綻が露呈していますわよ。お皿が割れるような音がしたなら、なおさら他の人も気づく筈。それに、お皿は割れていませんでしたよね?」



「本当に食事処から音がしたんだよ。お皿が割れたような音は、あくまで比喩的な表現だからっ!その時は割れたと思ったんだよ.....信じてよ!」





サブの視線は自然とシンの方を向いていたが、シンは気付かぬ振りをしていた。

サブの弁解はただ虚しく聞こえるだけだった。

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