表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
頭の中でレディは殺された  作者: 華矢
二章 彼女の名前はイチカ
26/43

誰かが殺さない限りは





眠りにつく前、ベッドに横になりながらも、頭の中はまだ鈴木さんのことで幾度もざわついていた。


「五郎くんって言ったけ?どんな子なんだろうね」


夜の獣のような声音、けどサブは楽しんでいる。

サブはいつもこんな調子だ。怖いことを言いながら、心の奥底では必ず笑っている。


ニア、サブ、シン───俺のイマジナリーたちがぼんやりと浮かんでいる。

実体があるのかないのか、いつも曖昧な存在。だけど、今夜はやけに生々しく感じるな。


「さあな、でも謎がいっぱいでおもしろい」


「鈴木様のイマジナリー、確かにとても不気味でしたわね。あの閉ざされた部屋、まるで誰かが閉じ込められているかのようでしたわ。ですが、(勇者)様が、そんなことに心を奪われているのは心外です!」


俺の心を見透かしたように、ニアは風のないイマジナリーで、長い髪をふわりと揺らした。


「どうして、鈴木さんは、暗闇の筈のイマジナリーに、部屋があったんですか...?」


シンが小さな声で割り込んだ。

シンはいつもビクビクしているが、今夜は特に怯えている様子だった。

サブの後ろに隠れ、縮こまっている。


「リアルだから不気味なんだよ、シンくん。」


そんなシンをサブは馬鹿にするようにケラケラと笑った。

その瞳の奥はやはり裏があるようにいつも笑っている。


「まあ、でも鈴木さんと友達になれそうで俺は嬉しいかも」



「ねえお兄ちゃん。さ、もし、鈴木さんと友達になったとしても、僕たちのこと忘れないでよ」


深刻この上ない顔をしてそう言ったのはサブだった。

ニアとシンも同じように思ってるのだろうか。誰も否定も肯定もしなかった。


「でもさ、お兄ちゃん。鈴木さんのことばっか考えていると、忘れちゃうこともあるよね。ほら、例えば........イチカお姉ちゃんの事とかさ」


その瞬間、俺の心が跳ねた。イチカ....。


どうして、どうして俺は、こんな大事なことを忘れていたのだろう?初めて好きと言ってくれて、こんな俺を認めてくれたイチカ。

鈴木さんの家庭環境や、共通のイマジナリーに気を取られてイチカのことを、ほんの一瞬でも忘れてしまっていた。

なんてことだ。俺はなんて馬鹿なんだ。


「イチカ、」


俺は呟き、拳を握りしめた。

「俺が、イチカのことを完全忘れていたなんて」


「お兄ちゃんの焦ってる顔可愛いね」

サブがまた軽い調子に戻って笑うが、ちょっと言い方が怖い。


「でもさ、イチカお姉ちゃんだってイマジナリー世界にずっと閉じ込められているんだよ。お兄ちゃんが忘れない限り、消えやしないよ。まあ、誰かに殺されない限りわ、ね?」


意味深げに言うサブに俺は苛立ちを覚える。


「冗談でも殺されるとか言うのは辞めろよ、お前らが殺すわけじゃないだろ?」


「そうですわね。(勇者)様がイチカ様を忘れない限り、消えたりは致しません。ですが、あまり鈴木様のイマジナリーに気を取られすぎると、(勇者)様の心も揺らぎますわ。くれぐれもお気をつけくださいね」


「.....うん、気をつけるよ、お前らもイチカのことも絶対忘れたりしない」


「約束ですわよ(勇者)様、破りましたら、わたくしたち消えてしまいますからね」


おどろおどろしい笑顔を見せたニアに面食らう。


「わかったってば。明日、鈴木さんとまた話してみるよ。けど、絶対に忘れないから。そのためにも、ニア、サブ、シン。毎日夜はこうやって話そう」


「分かりましたわ」

「わかった」

「……うん」


三人の声は不揃いで俺の頭の中でこだました。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ