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頭の中でレディは殺された  作者: 華矢
二章 彼女の名前はイチカ
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宇宙のような






毎日が同じ日の繰り返しだった。

朝、母に起こされ、嫌々ながら学校へ向かい、陰口を耳にしながら過ごす。

そんな単調な日々に、飽きない者などいる筈もない。

人は皆、友達や恋人がいれば、少しは彩りのある日常を味わえると言う。

愛とは何かすら理解できず、友達との遊び方すら知る由もない。

例えば、ゲームのように、友達との通話イベント、恋人とのデートイベントが起こるわけでもなく、ただただ同じ日が繰り返されるだけ。

きっと、社会人になってもこの退屈な人生は変わらないだろうと諦めていた。

だが、イチカと出会ってからは、全てが変わった。


俺の人生にやっと、春が来たのだ。


イチカは、四六時中傍にいてくれる話し相手となり、俺の人生を支えてくれた。一人寂しく夕食を食べることもなくなり、カードゲームで遊んだり、一緒にお風呂に入ったり、時には苦手な勉強も教えてくれた。

あの日々は楽しくて、俺の忘れられない思い出となった。

しかし、ある日を境にイチカは突然姿を消してしまった。


その後ニアが現れ、俺の友達になってくれた。口うるさい性格だが、実は面倒見が良くて、頭の回転も俺より遥かに速い。

カードゲームでは毎回負けてしまうが、それすらも俺にとっては楽しかった。

イチカとニアは俺が一人ではないことを教えてくれた大切な友達。




そして、イマジナリーに目印や光を生み出してから、約一週間が過ぎた。

未だに、ニアからの連絡はなく、目印に気づいた者もまだいない。

進展はまるでないまま、ただ時間だけが過ぎていく。

それでも、俺はイチカに会いたいと願わずにはいられない。


早くイチカに会いたい――大好きなイチカに。







休日の静かな午後。

俺は重い足取りで図書館の扉をくぐった。

どこか懐かしさがある図書館の古い紙の匂いが俺は好きなのだ。

ここに来ると俺は安心する。


「なんですの?その本」


人を試すような知的な響きのある声、ニアは不思議そうに言った。


「これか?これは宇宙についての本だ」


手に持った分厚い本を軽く振ってみせた。

表紙には、無数の惑星の写真が鮮やかに印刷されている。


「何故そんな本を借りるのですか?」


「前にお前が言ったろ?宇宙はイマジナリーみたいなものって。だから借りるんだよ。イマジナリーについて理解するには、まず宇宙からだろ」


「なるほど。着目点としては悪くありませんわね。ですが、宇宙はあくまでわたくしの例え話の域を過ぎませんわ。比喩として捉えるべきですわね」


「いちいち細かいな。俺がどんな本借りようが、別にいいだろ?お前は引っ込んでろ!」



思わず怒鳴ってしまって、周囲の視線が一斉に俺に集中した。

 そりゃそうだ。

ここでは、静寂こそがルール。

そんな場所で騒いでる俺は、独り言を喚いている狂人扱い。

ニアの声は周りには聞こえていない、ニアは俺の頭の中にしか存在しない「イマジナリー」なのだから。


(くそっ。ニアのやつこんな時に話しかけやがって)


 俺は顔を赤らめ、そそくさと空いた椅子に腰を下ろした。

本を開くが、文字はまるで頭に入ってこない。


ふと、視界の端に、見覚えのある姿が移った。隣の席の鈴木さん。

同じクラスメイトの子だ。

鈴木さんの存在に気づいた瞬間、あの日の出来事がフラッシュバックする。


(ほんと、臭いので.....学校来ないでくれる?迷惑してるんです。私達)


鈴木さんの申し訳なさそうに言っていた言葉が、能裏を過ぎった。

あの時の鈴木さんは怯えていた。

まるで誰かに強制されたかのように。

でも、その言葉は俺を苦しめたのだ。

イチカが失踪してから尚更苦しめられていた。夜な夜なその言葉を思い出しては呼吸がしにくくなる。



今も、その状況に陥っていた。

苦しい........。

休日にこんな思いをしたくない。

早くここから逃げたいのに、足が竦んで、椅子から離れられなかった。


鈴木さんが横目で俺を見た気がした。

その視線がさらに俺の灰を締めつけた。


「どうしたのですか?(勇者)様。呼吸が乱れていますわよ?」


ニアの声が遠くで聴こえるように、聞こえなくなる。

 心臓がドクドクと鳴り止まず、意識が遠のいていくのすら感じた。

 そして気づけば、俺は全ての光と音を失っていた。





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