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頭の中でレディは殺された  作者: 華矢
二章 彼女の名前はイチカ
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直接会わない?






───(勇者)は、私の事好き?




この問いかけは俺の頭を深く悩ませた。

好き...かもしれなかったのだ。

声と名前しか知らないイチカの事を好きだと思い始めたのだった。

今まで女の子と話したこと無かった俺は女の子の接し方すら、分からない。

なのにイチカはそれでも良いと言ってくれた。

こんな俺のどこがいいのか分からない。

俺の何がいいんだ?ガリ勉メガネのくせっ毛...それに俺は...。


「ねえ(勇者)」


「な...何!?突然話しかけられると緊張する...」


「大事な話があるの。」


ゴクリと唾を呑んだ。

今更大事な話ってなんだよ?

俺は今からイチカに結婚を申し込まれるのではないかと言う粗雑な妄想まで膨らませてしまっている。

現に俺の頭は既に常軌を逸している。




「あのね。私、(勇者)に直接会ってみたいの」





は?俺は眠たかった目を、思いっきり見張らき、息を呑んだ。


「会いたい?何を言っている?頭の中から聞こえる声とどうやって会うって言うんだよ!」


思わず声を荒らげてしまったが、心のどこかでは、イチカの存在を確かめたいという思いがあった。


イチカは存在するのか?それか俺のただの妄想なのか?それとも、別の何かなのか...?

でも、イチカの声は落ち着いていた。


「会えるわ。(勇者)が私の指示に従えば、ちゃんと会える。必ずよ」


「は!?どうやってだよ」


俺は半信半疑で言い返した。

頭の中で話すだけでも充分異常な状況なのに、会うなんてもっと異常じゃないか。

そう思った瞬間にイチカは声が少し楽しげだが、言葉は真剣に告げた。


「呪文が必要なの。その呪文はちょっと...その特別な言葉だから、しっかり聞いてて」


「呪文...?」


俺は眉を顰めた。

まるで子供をあやすような口調に、背筋がうねりと走る。

だが、イチカは少し照れたように笑いながら、言葉を紡ぎ始めた。


「それはね、(邪王暗黒rock on)これを唱えれば必ず会える」


俺はつい呆気にとられてしまった。


「は?....それを俺が言うのか?厨二病みたいじゃないか?やだよ、恥ずかしいし」


思わず鼻で笑ってしまうような呪文だったが、イチカの声は真剣で、笑いものでは無い雰囲気だった。


「ふふ、恥ずかしいわよね。でも信じて、この呪文を目を瞑って唱えれば必ず私達は会えるし、触れられる事だって出来るの、本当よ。」



俺はその夜、ベッドの中で悶々と考えた。

呪文なんて馬鹿げてる。

一人の部屋であんな呪文を唱えるなんて、想像しただけで紅潮しそうだ。

だが、イチカの言葉が頭から離れない。

イチカの笑い声、優しく励ましてくれる言葉、そしてこんな俺を「すき」と言ってくれた。

───でも、もし本当に会えたら....。時計の針は午後11時55分を指している。

俺は今から頭の中の声の女性と会おうとしているのだ。

なんともお伽噺のような話だ。

いや、突飛な話とも言えるな。

深く深呼吸をした。

心臓は波打ち、喉が乾燥したように乾く。

一旦俺は水分補給をし、緊張を和らげる。



「本当に...こんなのやるのかよ」



「お願いよ。私、本当に(勇者)に直接会いたいの。私に触れて欲しいの」



時計の針は、0時を告げた。

俺は緊張を抑え込んで、目を瞑り、震える声で禁断の呪文とやらを唱えた。


「邪王暗黒...rock on...」



羞恥心を押し消し、心の中で何度も「イチカ」と呟いた。


会えなかった事を想像するのが怖い。

イチカがただの俺の空想だと証明されるのが怖い。





(頼む、頼む。イチカ...イチカ....。)




胸の中に膨らむ期待と恐怖に耐えた。

その時だった、近くで小さな笑い声が聞こえた気がした。


目を開けると、そこは俺の部屋ではなく、暗闇の中で、スポットライトのようなものでイチカは、照らされていた。



「イチ...カ...?」



「(勇者)っ!!」



嘘だろ、本当に会えたのか?

甘い香りのイチカに抱きつかれ、俺は、生まれて初めての女の子の匂いにどきりとする。

イチカの容姿は想像通りとても美しかった。

茶髪ロングは彼女に似合っていて、そしてつぶらな瞳。

触れたら消えてしまいそうな愛らしい容姿。

イチカの纏っている花柄のワンピースは、色とりどりの花々が咲きほこる花壇のようで、その透明感のある肌に映え、名前の通り一輪の花のようだった。

イチカの佇まいは、確かに存在する美しさを放っている。




しかし俺は本当に、自分の頭の中? に入ることが出来たのか?




「(勇者)と、こうやって話せるの嬉しい!」




イチカの声は笑顔が浮かんでいて、弾んでいた。

俺は、イチカの存在を確かめるかのように手に軽く触れてみた。

暖かく、柔らかい。本当に存在している。生きている人間の暖かさだった。



「イチカ...本当に、いるんだな。」




「いるよ……ほら、触ってみて。」







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