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頭の中でレディは殺された  作者: 華矢
一章 容疑者の処刑
11/27

五郎の叫び




─── 5 ───





足元に自由が効かないことに拙者は気づいてしまった。

足元をロープか何かで縛られているのだろうか?

身動きを取ろうと、必死に踠くが、やはり身動きが取れない、安易に動かそうとすると、はち切れそうな痛みがじわじわと体内に迫ってくる。

拙者は何かで拘束されているのか?



その時、(勇者)殿がこちらに近づいてくる気配を感じた。

...拙者の心拍数が上がっていくのを嘲笑われているよな足音。

出来ればあまりこちらに近づいてきて欲しくはない。



拙者の目の前には、先程まで仲間であった(勇者)殿の姿。

でも、その顔には以前のように不器用で真っ直ぐな笑顔の欠片もない。

代わりにあるのは、拙者を嫌うような軽蔑した眼差しだ...。

拙者は殺人など一切していないのに疑いの目が"そこ"には確かにあったのだ。


隣に立つシン殿の影もまた、薄暗く、奇妙な部屋の片隅で奇妙さを発している。



拙者の両腕は背中で太い縄に縛られ、粗い繊維が皮膚に食い込んで焼けるような痛みを放つ。動くたびに縄はさらに締まり、腕の筋肉が圧迫されて血の流れが止まるような感覚が広がった。


息を吸うたび、胸が無理やり繋がれたロープで締め付けられて、肺に空気が充分に入らない。

意識がぼんやりとし、記憶もまた曖昧だった。

どうやら拙者はさっきまで気絶していたらしいな。

この処刑場に連れてこられるまでの経緯が曖昧で、思い出そうにも思い出せない。




確か、部屋を探索した時だった。

そこには山のようにお菓子が積まれていた。



それが、全ての発端だった気がする。

だが、拙者は、クローゼットの中にわざわざお菓子を置いた覚えなど決してない!

それなのに(勇者)殿は、拙者を犯人だと決めつけ、死刑を宣言したのだ、恐ろしい。

あまりにもこじつけじみた理由。

だが、それほどまでに(勇者)殿は追い詰められていたのだろう。

あるいは、シン殿の巧妙な策略に操られているのかもしれない。

拙者の頭には、怒りと無力感が交錯する。

真犯人は、シン殿だ。確実にシン殿だ。

拙者に罪を擦りつけ、ロン殿を自殺に見せかけて殺したのもあやつに違いない。

しかし、そんな真実を叫んでも、(勇者)殿の耳には決して届かない。

最愛の恋人を失った悲しみで拙者の言葉は何を言っても(勇者)を揺るがすことなど出来なかった。


目の前で、(勇者)殿の手にしたナイフが...光を反射して、きらきらと太陽のように輝いて見えた。



「はあ……、はあ……」



 拙者の呼吸は乱れて、喉がカラオケに行った次の日のようにかすかすになる。

息を吸うたびに、心臓がおかしくなってしまいそうだ。

拙者は呼吸をすることすら、ままならない。



「(勇者)殿。本当にこの行為は正しいと思うのか?拙者達は……友達だったのではないか?」



拙者の言葉が、(勇者)殿の動きを一瞬止めることが出来た。

ほんの僅かだが、以前の温かさがそこに戻ったかのように思えた。



だが、それは刹那の幻だったようだ。

すぐに(勇者)殿の顔は再び硬直し、ナイフを握る手が少しだけ震えながらも、拙者の首筋へと向けられた。


はぁ...はぁ....っ。



冷や汗が背中を伝い、嵐の滴が肌を這うような感覚が全身を包み込んだ。



「罪を償うんだ、五郎」



その言葉と共に、ナイフの刃先が拙者の首に触れた。


冷たいナイフの感触が、「死」そのものが肌に囁くようだった。

瞬きをした次の瞬間、刃の先端が皮膚を裂き、熱い痛みが段々ジワジワと迫ってきていた。


ナイフは徐々に首筋から中へと潜入していき、骨にまで達する勢いで、打ち付けてきた。


怖いよ、こわい。鈴木ちゃん....助けて。


血が噴水のように吹き出し、赤い血が視界全体を覆った。


首筋から流れ落ちる血はまだ熱くて、喉まで伝い、足にまで到達した。

擽ったいと感じたのは、きっともう痛覚が機能していないのかもしれないな。


ぽたぽたと垂れる赤い血。


痛みは全身を駆けて巡りに巡って、身体が内側から引き裂かれるようだった。


拙者は叫び声を上げようとしたが、喉はすでに機能を失い、声を出すことすらままならない。


 ゴポッゴボッッ......と、水が詰まった排水溝のような不潔な音が聞こえた。

これは拙者の体内の音か?実に不潔な音だった。


視界は赤と黒色だから、(勇者)殿の顔が歪んで見える。

 (勇者)殿の目には、確かに涙が浮かんでいた。それは拙者の最後の言葉が、(勇者)殿の心の奥底に効いたかのように....。


だが、その涙は拙者を救うものではない。

もう遅いのだ。もう........遅いのだ....。



血は止まることはなかった。

床に大きな水溜まりが.....

身体が冷えていくのを感じた。

指先は震えて力が入らず、膝が崩れ落ちた。

徐々に世界は暗くなって音が遠ざかる。

救急車を連想させられる。


シン殿か、(勇者)殿か……誰かが呟く声が微かに聞こえたが、言葉はもはや拙者の耳に届かない。



 意識が薄れていく中、最後に見たのは(勇者)殿の涙に濡れた汚らしい顔だった。

その顔はまるで、拙者の無罪を信じたかったのに信じきれなかった男の顔だった。



 ――さよなら。



 もし、また会うことが出来るなら、イマジナリー……頭の中ではなくて、、現実世界がいいな。鈴木ちゃんと一緒に...2人はまた笑ってくれるって信じている..

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