容疑者5人
俺は今日、学校を休まなければならない緊急事態となった。
何故ならば、彼女が殺されたと言う報告を受けたからだ。
これが本当なら、警察に調査を願いたい大事件だ。
だか、それは無理だと断言ができた。
何故なら犯行は、イマジナリー世界
───つまり俺の頭の中に存在する世界で、彼女の命は無惨に奪われたのだ。
俺が何を言っているのかさっぱり分からないかもしれない。
けれど、俺の頭の中には、もう1つの世界が存在し、俺はそこで6人の友人がいる。
その中の一人が俺の彼女だった。
当初は俺も、頭の中に世界が存在するなんて思ってもいなかったし、信じられなかった。
けれど、彼女たちはただの妄想ではなく、俺の知らない知識までも知っていた。
俺は、その頭の中の世界を 「イマジナリー世界」といつしか呼んでいた。
───
時刻は朝5時55分。
薄暗い部屋に少年の声が聞こえた。その声は、俺の意識を現実へと引きづり出した。
「お兄ちゃん起きて……大変なんだ。」
声の主は103号室に住むサブという名の少年だった。
その全身が震えるような声にただ事ではない気配が浮かんでいた。
「101号室に住むお兄ちゃんの彼女...イチカお姉ちゃんが殺されたんだ!!」
サブは確かにそう言った。
「何!?」
俺はその言葉の意味を理解出来なかった。
いや、理解が出来なくて当然だった。
イチカが殺された?そんな筈あるわけがないだろう。
だが、サブの瞳の恐怖心は、俺の否定を粉々に打ち砕いたのだ。
眠気を即座に振り払い、俺は直ぐにイマジナリー世界に向う準備をした。
意識が揺らぎ、現実世界の俺の部屋が滲んでいく、俺はイマジナリー世界に意識を飛ばす事に成功した。
――そこは、俺の頭の中であり、俺だけの王国だ。
そこには、食事処と言う食事を取る場所がある。
そこで彼女は殺されたらしい。
そんな訳ある筈がないって思いたかった。
だが、足を踏み入れると、香ばしいような、死んだ魚の匂いが鼻を擽らせた。
その匂いは、まるで...血の匂いそのものだった。
嫌な予感がした。
そして、その嫌な予感は的中し、彼女はそこにいた。
いや、もはや「いた」とは言えない。
イチカの身体は冷たく横たわり、嘗ての美貌は無惨に切り刻まれ、俺を移していた美しい瞳は抉り取られて、空虚さを堪えていた。
時間は止まったかのように、俺の心は破壊された。
それも、相当彼女に恨みがある者が殺したに違いなかった。
こんな殺し方をするなんて……。
「誰だ、一体誰がこんな事をしたんだ!!」
犯人はこの中にいると俺は確信している。
イマジナリー世界には、彼女を除外とし、5人のメンバーがいる。
外部の人は入り込めないのだ。
つまり、犯人はこの5人の中に「必ず」しもいる。
ホールに5人を集め、俺は裁きを下す者のように命じた。
「点呼を取る。部屋の番号と名前を言え!」
「102号室、ニア。」
「次」
「103号室、サブ。」
「次」
「104号室、シン。」
「次」
「105号室、五郎。」
「...次!」
「おい待て。106号室のロンはどこだ?」
俺は異様に気づいた。106号室だけが点呼から抜けている。
「お兄ちゃん、ロンちゃんは……最近部屋から出てこないんだ。」
確かに最近ロンとは会話をしていない気がする。
1週間?いや、1ヶ月はしていない。
「誰か、ロンを部屋から呼んでこい!」
「おい!落ち着け主人、ロン殿は今冬眠をなさっている!」
騒ぎ立てる俺を落ち着かせるかのように五郎は言った。
しかし、俺の困惑は収まらなかった。
「うるさい野郎だ。こんな時期に冬眠だ?」
俺思わずは鼻で笑った。
「イチカを殺したのはロンで決定だな一番怪しいじゃねか!」
サブは叫び、否定する。
「ロンちゃんがそんなことするわけないよ!」
「犯人はよく喋るって言うよなあ。サブ!お前、それに第一発見者だろ?どういう状況でイチカの死体を見つけたんだよ。言ってみろ」
サブは俺の声に酷く怯えているようだった。
「酷い....。僕が朝食を食べに食事処に行ったら、イチカお姉ちゃんが血まみれで倒れていたんだ。嘘じゃない!確か、時刻は5時過ぎ頃だったよ」
「ふーん」
俺は目を細め、視線をニアへ移した。
「サブが言うには、ニア。お前はもっと早くの時間に食事処でミートソースパスタを食っていたらしいな。なのに死体に気づかなかったって?どういうことなんだ?」
俺の視線はキツく、空気全体が一瞬にして重くなった。
ニアは怒りと焦りの表情を浮かべている。
「お待ちくださいな!私が食事処に行ったのは4時半頃ですわ。その時にイチカ様の遺体なんてありませんでした!5時ぐらいには自室にもどっております!」
「じゃあ、5時から5時半の間に犯行が行われたってことか?」
俺は猛獣のようにサブを睨みつけた。
「サブ、お前その間に食事処にいたんだろ?」
サブは俺の言葉に慌てて弁解をする。
その困惑さが、余計に犯人に見えてくる。
「ちょっと待って!僕、5時過ぎくらいには、行ったけど、すぐ遺体を見つけたんだ!犯行はその前だよきっと!」
答えの出ない言い争いがヒートアップする中、けたたましい音がイマジナリー世界を貫き出した。
朝6時のアラーム音だ。
現実世界から、突如として母の声が頭の中まで煩わしく響いた。
「(勇者)学校に行く時間よ起きなさい!」
「ちっ、鬼婆に呼ばれた。行ってくる。」
4人に聞こえるよう大声で言い放つ。
「お前ら、一刻も早く真犯人を見つけろ。そして遺体には一切触るな!」
「分かりましたわ。」とニア
「わかった。」とサブ
「……うん」とシン
「了解した!」と五郎
───
4人の声が不揃いの中、俺は意識を現実へと戻した。
ベッドから這うように起き上がり、母と向き合う。
「お母さん。俺今日は学校に行けないよ...。」
「どうして?」
母の声は既に疑いの色が滲んでいた。
「熱があるかもなんだ」
母は無言で俺に体温計を突きつけた。
その無言の表情は、如何にも俺の嘘を見透かしたような粗雑な表情。
「.....」
体温計が示したのは、36.1度という微妙過ぎる平熱に、俺は居たたまれない気持ちに襲われた。
「ほら支度しなさい。」
母の容赦ない言葉に、カバンを背負わされ、片手にパンを握らされる。
まるでどこかの少女漫画のような滑稽な姿だった。
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