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第二話 十年前

サテライト様のおかげで十年前に戻ることが出来た。わかったことは十年前の記憶があるのは私だけということ。おそらくサテライト様も記憶があるとは思うけど、貴族のお屋敷に行って確認するわけにもいかないし。そんなこと言って入れて貰えるわけもないもの。門前払いされるか下手したら大怪我させられるかも。もしかしたら私に能力があるのかもと巻き戻そうとしてみたが、そんなこと起こるはずもなく。ただの孤児院育ちの平民だった。たまたま私に記憶が残っただけだろう。でもこれはチャンスだ。せっかく十年前に戻ったのだから好き勝手生きてみよう。後悔のない人生。それが今世の私の目標だ。とりあえずこの十年前の孤児院、六歳の子供時代を有意義に楽しむことにしよう。

 「ルナ!今日は小麦粉が手に入ったらしいぞ!一緒にパン作ろうぜ!」

 パンプキンに話しかけられる

 「うふふ。これでも私パン作り得意なの。」

 「ルナは作ったことないくせに」

 あるんだなーそれが。私は孤児院を出た後はメイドとして働いていたからパン作りも何回かさせて貰っていた。

 「本で読んだことがあるの。そしてイメージトレーニングをたくさんしてるから得意なのよ。」

 「やったことないくせに口だけは達者だな。家事も今は得意だけど慣れるまで時間かかったくせに〜。」

 「大丈夫よ!バッチリ完璧に美味しいパンを焼いてみせるわ!」

 「他の奴らも呼んで一緒に作ろうぜ。こんな経験滅多に出来ねぇからな。」

 「そうね。」

 私達は孤児院の仲間達に声を掛けた。

 「やだよ。貴重な小麦粉だろ?シスターに渡して使って貰った方がいいじゃねぇかよ。俺ら失敗して全然食べられねぇもんが出来たら最悪じゃねぇか。」

 口の悪いトマトが反論をする。トマトはパンプキンと同じ九歳だ。いつもツンツンしてるけど本当は心優しい男の子だ。

 「本の通りに作れば私達でも作れるよ!楽しいから一緒にやろうよ〜」

 私はトマトを説得しようと必死だ。

 「私もトマトに賛成かな…せっかく柔らかくて美味しいパンが出来るかもしれないのに私達で失敗したパンは食べたくないよ…」

 この子はパプリカ。私の一つ下の五歳の女の子。パプリカは家事は苦手だけど、子供達や赤ちゃんの世話をするのがとても得意。パプリカは孤児院のみんなに愛されている。

 「うーん。じゃあ今日は半分だけ小麦粉を使おう。失敗したら明日シスターに渡すからさ。」

 パンプキンが提案する。パンプキンはここの孤児院のリーダー的存在だ。ここの孤児院は十歳になるとみんな卒業して働く。だから九歳のパンプキンが子供達の中で一番お兄さんなのだ。

 「もう全部シスターに渡そうぜ。」

 トマトは失敗するのが嫌みたいだ。

 「たしかに失敗するかもしれないけど、これはチャンスだぞ。あと一年で俺らはここを卒業して一人で働かないといけないだろう?その時に俺らは学はないから色々な経験をしないと立派に働くことができないんだぞ。パン作り上手く出来ればどこかで雇って貰えるかもしれねぇよ。」

 パンプキンって凄い。まだ九歳なのにそんな先のこと考えて行動してたのか…。私は家事が得意だったからそのままメイドとして雇って貰ってたけど。何も考えて無かったなぁ。

 「…分かった。みんなでパンを作ろう。」

 トマトが納得してくれた。

 「よっしゃー!!でも俺もまだ一回しか作ったことねぇし失敗しても怒るなよ!?」

 「わかってるよ…俺も一回は作ったことあるから…なんとなくは覚えているけど、自信ねぇもん。」

どうやらパンプキンとトマトはパン作りの経験があるみたい。その時は成功したみたいな口ぶりだ。

 「クラウドさんは何でも出来たからなぁ。今は王家で使用人として働いているんだって。孤児院出身なのにマジですげぇよ。」

 クラウドお兄ちゃん。ここの孤児院出身でスーパースターだった人。みんなクラウドお兄ちゃんのことが大好きだった。みんなに優しくて頭も良くて何でも出来る人だった。私もクラウドお兄ちゃんにめちゃくちゃ懐いていた。クラウドお兄ちゃんにも会いたかったなぁ。十一年前に戻ってたら会えたのに。

 「クラウドさんがいなくても成功出来るようにみんなで頑張ろうぜ!」

 そう言って私達四人は厨房へ向かった。

 「作り方の本は持ってきたけど、漢字が難しくて読めねぇ所があるな。」

 「どれ?あぁこれは塩だな。あと材料に必要なのは砂糖とドライイーストらしい。」

 トマトが漢字を読んでくれた。トマトは本を読むことが好きだから文字を読むことが得意だ。

 「トマトすげぇな!ありがとう!でもどれが砂糖でどれが塩かわかんねぇよ。」

 「それなら私わかるよ!」

 私が言う。キッチンを漁り材料を探す。

 「うーん。塩はあるけど、砂糖はないみたい。」

 「じゃあ作れないの?」

 パプリカが言う。

 「砂糖がなくても作れるよ。小麦粉と塩とドライイーストがあれば美味しく作れるよ。」

 「なんで作ったことないくせに言い切れるんだよ。」

 トマトに言われる。

 「私は料理もするでしょ?材料だけでどんな味ができるかだいたい想像が出来るのよ。砂糖がないだけでパンが膨らまないとかそんな失敗はしないよ。」

 「ルナ最近なんか変わったよな。前はえーどうしよーこんなのできなーい無理だよーとかめっちゃ言ってたくせに。」

 トマトに言われる。

 「私も大人になったのだよ。」

 「まだ六歳のくせに。」

 「実は十六歳なの。」

 「また言ってる。最近そのネタ好きだよな。私は実十六歳で十年前から戻ってきたって?」

 「そ…その話はもういいじゃない!!」

 「恥ずかしくなってやんのー。そういうの黒歴史って言うらしいぜ。」

 「うるさい!トマトのいじわる!!」

 「トマトお兄ちゃんもう辞めてあげようよ…あの時のルナお姉ちゃん熱もあってちょっと変だったし…からかわないであげようよ…」

 パプリカ…私の天使。いや、この孤児院の天使。

 「わかってるよ…すまねぇなルナ」

 ふん。トマトもパプリカには甘々なんだから。

 「わかればいいんだよ。」

 ドヤ顔で言ってやった。トマトが私の態度にイラッときてる。

 「ルナお姉ちゃんも大人気ないよ…仲良くパン作りしようよ…」

 「…すみませんでした。」

 気を取り直してパン作りをする。私は何回も作ったことあるけど、不安そうに必死に作るみんなを見てあまり手を貸さないことにした。本当は私一人でも作れるけどそれじゃきっと意味がないから。材料とか分量を間違えないようにしっかり見て上手く出来るように誘導した。パンをこねる時めちゃくちゃきつかった。やり方はわかってても、今は六歳の体だから上手く出来なかった。

 「粉の部分がなくなるまで綺麗にこねないといけないのに…」

 必死でこねつづける。

 「これやり方合ってるのかな?大丈夫かな?」

 パプリカが不安そうに見つめる。

 「見ろ!俺がこねたやつはどんどん綺麗な生地になっていくぞ!」

 パンプキンの生地は本当に綺麗になっていた。

 「同じやり方なのになんで俺のは出来ねぇんだよ…」

 トマトが呟く。

 「大丈夫だって!力込めてこねればどんどん生地になるから!頑張れ!!」

 くそー。体力馬鹿め。私が一番上手に出来て、えっ!凄い!ルナ天才!!みたいな展開を期待していたのに!!子供の体じゃなかったらマウント取れていたのにーーー!!

 「あっ俺の生地も綺麗になってきた…」

 トマトが言う。本当にトマトの生地も綺麗になってきていた。パプリカの生地はパンプキンが手伝って綺麗に出来ている。

 「ルナも手伝おうか?」

 「私は…大丈夫…言ったでしょ…私はパン作りの名人だって…」

 「いや…パン作りの名人なんて初めて聞いたけど…初めて作るのに名人なのか…?」

 「私には……パンを作る……才能が…あることをみんなに……知らしめなければ……」

 「なんで?笑」

 パンプキンとトマトとパプリカか笑う。

 「なんで?…なんでかは…わからんけど…」

 三人に爆笑された。

 「大丈夫だよ!どんなパンでもルナのパンか一番好きだよ!」

 パンプキンに言われる。

 「初めて作るくせに何イキってんだよ!」

 トマトに言われる。

 「ルナお姉ちゃん…料理だけは負けたくないのかな…笑」

 パプリカにまで笑われてしまった。

 十年前に戻ったからって人生イージーモードなわけではないんだと痛感した。この体全然力ない。でも私は自分で作りたいのだ。もうヨレヨレだけど必死に生地をこね続けてようやく綺麗になってきた。終わった時はもう疲れ果てていた。

 「これから一日放置するよ。」

 「え?すぐに焼かないの?」

 「発酵させないといけないから。」

 トマトとパプリカが言う。

 「じゃあ明日のお楽しみだね。」

 私が言う。

 「明日と言えば知ってるか?明日新しい子が来るって」

 パンプキンが話す。

 「そうなの?知らなーい。女の子?男の子?」

 「俺もそれは知らない。」

 「でも孤児院に入らないらしいぞ。」

 トマトが割って入ってくる。

 「じゃあ何しにくるの?」

 「知らねぇ」

 「ふーん。明日になればわかるかー。」

 明日は発酵したパンを焼くことと新しい子に会う日か…楽しみだなー。

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