第十九話 ウンディーネ
今日は五月一日。アーマーの誕生日。十五歳になり、来年の四月から、魔法学校に入学する。今年のプレゼントは兄としてではないから用意するか迷ったけれど、一応準備はした。同じ屋根の下に住んでいるのに何もあげないのはさすがに薄情すぎるかなと思って…。今日は一日、パーティの準備があるから屋敷内は忙しく騒がしい。朝食もみんなで食べることが出来ない。今日、この屋敷で暇なのは私とガリバーだけだろう。アーマーはパーティーが終わるまで、会えないから夜少しだけ会っておめでとうと言って、プレゼントだけ渡そう。
アーマーから私が今日着る用のパーティドレスや宝石が贈られていた。でも、人前に出るわけでもないから着なかった。パーティドレス重たくて動き辛いし。いつもの普段着用のドレスを着ようとしたが、
「ルナお嬢様。今日そのドレスを着られると逆に目立ってしまいますよ。こちらのパーティドレスなら動きやすいですし、可愛いですよ。」
「わぁ!凄い斬新なデザインね!初めて見るドレスだわ。」
用意してくれたドレスは、ドレスの丈が膝上のミニになっており、ふわふわとした妖精のようなドレスだった。
「最近流行っているんですよ。まだまだメジャーではないですけれど、ルナ様はお若いですし、きっとお似合いになりますよ。」
「今日はこのドレスにするわ。ありがとう!」
私は妖精のようなパーティドレスに着替えた。今日は忙しいからほとんどみんなが相手にしてくれない。社交パーティがある日はいつもこんな感じだ。私はいつも屋敷内を歩いてウロウロして歌っている。みんなが忙しいのに私だけ暇なことが得した気分になって楽しいのだ。頑張って用意した料理を少しつまみ食いしたりして、イタズラをする。この解放感がたまらない。私は自由だ!今日はアーマーの誕生日という一大イベントだから昼頃からパーティが始まる。私は誰にも見つからないように屋根の上に登って、青空を見上げながら昼寝をしていた。
目が覚めると夕方になっていたので厨房へ行き、またパーティの料理をつまみ食いしていく。
もうすぐ夜のパーティが始まる。夜のパーティは歌やダンスをホールで貴族達が踊ってお祝いをする。
「おぉ!始まってるー!」
演奏が流れてホールが盛り上がっている。これなら多少は私が騒いでもバレないだろう。なんとなく、今日は噴水の中に入ってみたい気分だった。私は靴を脱いで噴水に入る。噴水は冷たくて気持ちよかった。ホールの演奏に合わせて私も噴水の中で歌って踊る。
「♪ラ、ラ、ラ、ラ、ラン、ラン、ラン」
歌いながらバシャと水を蹴り上げると目の前に人がいた。十五歳ぐらいの男の子だ。
「あ、、、すみません。大丈夫ですか?」
私は顔を覗き込み無事か確認をする。普通にびしょしょに濡らしてしまっていた。
「あの、、、悪気はなかったんだです…。誰も人がいないと思って…。」
「フフフッ。人だったんだ。妖精が歌ってるのかと思ったよ。」
目の前の男の人は笑ってそう答えた。
「水の妖精さん始めまして。私はグレゴリー・ライトという者です。」
「初めまして。」
「お名前をお伺いしても?」
「人ではありません。水の妖精です。」
「水の妖精には名前がないのかな?」
「ウンディーネです。」
「ウンディーネ。凄く綺麗なダンスと歌声だったね。もう一度見たいな。」
「え!?本当ですか!」
「うん。とても幻想的で美しかったよ。」
「じゃあアンコールに応えてもう一曲踊ります!」
練習で歌って踊ったことはあるけれど、人前で披露するのは初めてだった。私は思うがまま、歌って踊った。楽しい。とても楽しい!!
「ブラボー!とても素晴らしかったよ!」
私が一曲終えると拍手をしてくれた。
「ありがとう!拍手を貰えたのは初めて!嬉しい!!」
「ウンディーネはどうして噴水の中にいるの?パーティが嫌い?」
「違うわ。なんとなく噴水に入りたい気分だったから入って、なんとなく歌いたい気分だったから歌って踊っていただけよ。」
ライトは目をまんまるくして驚いていた。
「ハハハッ最高にロックな生き方してるね!」
「ロック?ロックってなに?」
「うーん…。世間体は気にせずに自分の価値観を信じて生きるみたいな意味かな?」
「そう…私ロックなの!!何にも縛られずに自由に生きたいの!」
「じゃあロックバンドとかは知ってる?ギターやドラムに合わせて歌うんだ。」
「なにそれ!知らない!教えて!!」
「グレゴリー家に招待しますよ。ウンディーネ。」
「ルナ。グリード・ルナです。」
「………は?グリード??」
「今は居候の身なので、他の方には内緒にしてくださいね!」
「私大丈夫ですか?不敬罪とかに…。」
「なるわけないじゃない。私が水ぶっかけたのに。あ、私のことはウンディーネって呼んで欲しいな。芸名みたいでかっこいいから。」
「じゃあ、私はウンディーネの一人目のファンですね。」
「嬉しい!一生推して下さいね!」
「最古参として自慢したいので、有名になって下さいね。」
「あっ!ファン第一号としてファンサービスしてあげる!」
ガリバー!と呼んでペンを持ってきてもらう。
色紙がないからハンカチでいいや。私はハンカチにウンディーネとサインを書いてライトさんへと名前を入れた。
「はい!ファン第一号の証だよ!プレミア価値が絶対つくから大事にしてね!」
「ありがとう。大事に保管しておくよ。ウンディーネに俺の演奏も早く聴かせたいな。今はギターが手元にないからグレゴリー家に招待した時、聴いてくれる?」
「もちろん!ライトのギター演奏とても楽しみにしているわ!」
そう言っている間に、夜のパーティも終了したみたいだ。ライトに新しい着替え用意するって言ったけど、もう帰るだけだからと断られてしまった。
そして私は…アーマーに会いに行った。