第141話 本音
それから3日間、ほとんどカイと一緒に過ごした
カイは私がアース音楽団を抜けると聞いても普段と変わらず、接してくれるから居心地がよかった
お金は王家から貰っているので
カイと一緒に遊びまくった
レストランで豪華な食事を食べたり
演劇を見に行ったり
ガラス工房でグラスを作ったりした
タダでたくさん遊ぶことが出来るのでカイは大喜びだった
私達はこの3日間、喧嘩をしながらだけれど仲良く遊んだ
幸せだった
そして私の新曲の練習日になった
ジャッカルの部屋にみんなで集まり練習を始めようとするけど
私とカイ以外のメンバーの空気は重く
特にジャッカルは心ここにあらずという状態だった
「んー?まだやる気出ない感じ?」
と私は言う
「仕方ないなぁ。じゃあ無理やりやる気を出させてあげるよ。」
私はギターを弾いて
1人で新曲の演奏を始める
私の新曲を聞いて
演奏したくならないわけがない
だって…ジャッカルは私の曲の大ファンだから
1人で演奏を終えて私はみんなに言う
「いい曲でしょう?演奏したくなりました?」
やる気を出させることなんて簡単だ
私の曲を聞いたら
演奏したくなるに決まってるんだから
「じゃあ練習始めましょうか!」
私が合図すると全員が演奏に参加して練習を始める
全員が参加することにより
音に重厚さが増して
とても気分よく練習することが出来た
リリーはコーラスとして歌ってくれている
私の歌よりリリーの歌声の方が綺麗すぎる
練習は無事に終わり
ライブは大成功の予感しかしない
1週間後にライブがあるので
今日からは毎日全員で合わせて練習をすることになった
練習を終えて、私はカイと食事をしようとしていると
「ルナ。今日は俺の相手をしてくれないか?」
とナイルに呼び止められた
「もちろん。いいよ!」
私達は静かな雰囲気のカフェに2人で移動した
「意外な場所で話すんだね。お酒飲めないんじゃない?」
「今日はお酒を抜きで話がしたいからね。コーヒーで我慢できる店にしたんだ。」
「お酒なしで話を…?」
「たまには真面目な話をしようじゃないか。」
「えぇ…やだ…こわいよ…説教でもするつもり?」
「そんなわけないだろう?怒られるようなことなんてしてないじゃないか。」
「カイには毎日怒られてるけど。」
「君達の喧嘩は戯れと同じだろう?カイが羨ましいよ。こんな時…仲良くルナと遊べることがね。」
「え?じゃあナイルも一緒に遊べばいいじゃん。」
少し困った笑顔でナイルは微笑む
「ルナのもうすぐ会えなくなる状況で…笑顔で遊べる気がしないよ。」
「そっか…でも最後はみんなでどこかに遊びに行ってみたいなぁ…ダメかな?」
「遊びたい気持ちはみんなあると思うよ。ただ…大事な仲間がもうすぐ死ぬかもしれない状況でみんなで楽しく過ごすのは難しいかもね。」
「残り少ない余生をみんなで楽しく過ごしたいのになぁ…」
「みんなもそう思ってるよ。ただ…気持ちの整理が出来ないだけさ。だからカイには感謝している。ルナと心から楽しく過ごせるのはカイしかいないからね。」
「あいつひどいんだからね。勝手に1人で死んどけとか言うんだよ?人格破綻してるよね。」
「アハハ!ひどいね!」
「最低なやつだよ!カイは!」
「同族嫌悪かな?」
「一緒にしないでよ!!絶対違うから!!」
「アハハ!ごめんごめん!」
ケタケタと笑った後にナイルは言う
「なんとなく…ルナはずっとアース音楽団にいて…生涯共に演奏して旅をするんだと思い込んでいたからさ。現実をまだ受け止めきれないんだ。」
その言葉に私は固まってしまう
堪えていたものが溢れ出してしまう
「…そんなの私だってそう思っていましたよ。アース音楽団で死ぬまで旅するんだって…私だってそう思ってた。」
素直な気持ちを吐露すると涙が溢れてきてしまう
「私だって!!本当はずっとアース音楽団のみんなと一緒に旅がしたかった!!なのになんでこんなことになっちゃったんだろう…時間を戻したから?私の先祖が反逆軍だったから?納得できないよ!!そんなの!!私の願いは自由に旅が出来ればそれだけでよかったのに!!それ以上は何も望んだことなかったじゃない!ひどいよ!!なんで私だけこんな目に遭わないといけないの?理不尽だよ!私は何も悪いことなんてしてないのに!!」
我慢していた気持ちが一気に溢れてボロボロと涙を流して大泣きする
泣いている私の頭をナイルは優しく撫でて慰めてくれていた
私は後悔なんてしていない
今からされる刑罰にも納得している
でも…やっぱり
みんなと一緒に旅がしたかったよ
こんな愚痴を言えるのはナイルだけ
特にジャッカルの前でこんなこと言ったら…
ジャッカルは反逆しようと説得してくる
そんなことされたら…決心が鈍りそうだ
だって本当はみんなと一緒に旅がしたいんだから
大事な育ての親を殺して
私は自由を手にしたくなってしまいそうだから
「自由に生きるルナを応援している。これは俺の心からの本音だよ。離れていても俺達は仲間だ。それに…俺達にはルナが残してくれる曲がある。この世に君という天才がいたこと。俺達は語り継ぐよ。」
ナイルは…私のことを尊重してくれる
反逆しろなんて絶対言わない
だからこそ本音で話せる
「絶対に忘れたらダメだよ。忘れたら化けて出てきてやるからね。」
「それは…出てきて欲しいかもな。」
「呪ってやるのに?」
「もう一度ルナに会えるなら呪われても構わないさ。忘れることはないけれど…気が向いたら化けて出てきてね。」