第135話 伝説
次のライブの練習の約束を取り付けてから私は王城へと帰った
「ラ〜。ラ〜。ラーン!」
私はご機嫌に歌を歌いながらアーマーの牢屋へと入る
「やっほー!アーマー!ご機嫌いかが?」
「最悪だよ。」
「あら。大変。」
「ルナが今日ライトに会いに行っている事実だけで気分が悪いのに、ここ最近で1番上機嫌で帰ってきたルナの姿を見たらこのまま暴れてしまいそうだよ。」
そう言ってアーマーは牢屋の壁を殴ってヒビを入れてしまっている
「あ!ダメダメ!まだ牢屋にいてもらわないと困るんだから!」
「何故?俺を除け者にして遊んでいるだけのくせに。ルナにとって俺はいらない人間か?だからずっとここに閉じ込めておきたいのか?」
「もう。ライトに対してのコンプレックスが酷すぎるよ…。ライトはただの師匠!恋人はアーマーなんだから!」
「気に食わない。ルナを笑顔にする存在が気に入らない。」
「私はずっと真顔でいろって言うの?」
「俺の前以外では笑って欲しくない。ルナの全部を独り占めしたい。」
「束縛する男は嫌い。」
「…わかっているよ。束縛なんてしない。ライトに会いに行くのも好きにすればいい。俺の元に必ず帰ってくるならね。」
「やだなぁ。当たり前でしょう?私の帰る場所はアーマーの元しかないわよ。この世界に私の居場所なんて他にないんだから。」
「…そう。俺とルナの2人でいいんだ。他の人間なんてどうでもいいんだ。」
「他の人間はどうでもよくないけどね。円満解決を目指してるから、もう少し待っててね。」
「本当に円満解決を目指しているのか?遊んでいるだけじゃないのか?」
「遊んでないわ!ライトのバンドのライブにゲスト出演が決まったのよ!」
「遊んでるじゃねーか!!」
「これは円満解決にとても重要なミッションよ!」
「敵国の外交とかはどうしたんだよ!戦争を止める為に働いているんじゃないのか!?」
「それはクラウドお兄ちゃんが頑張ってくれてるから大丈夫よ。」
「おい!ルナはやってないじゃねーか!」
「私が説得してクラウドお兄ちゃんは外交の仕事をしているのよ。私の功績だわ。」
「絶対ルナ関係ねぇだろ…」
「クラウドお兄ちゃんは私の犬よ。なんでも言うことを聞くわ。」
「あまりクラウドを困らせるなよ…。」
「アーマーってクラウドお兄ちゃんには優しいよね。」
「クラウドは俺とルナの仲を王城で唯一応援してくれた味方だからな。苦しい時に相談してもらったりしていた。感謝している。」
「アーマーが感謝するなんて…!!クラウドお兄ちゃんすごい…」
「それで?ライトのバンドに参加するまでは俺は牢屋なのか?」
「YES!」
「はぁ…わかったよ。ライトとはこれ以降一切関わることもなくなるだろうから。俺は寛大な心でライブに送り出してあげるよ。」
「新曲を作ったの。それを披露するんだ。」
「アース音楽団じゃなくてなんでライトのバンドなんだ?」
「だってこの曲は…この世界への反逆の曲だから。王家の前で歌いたいのよ。舐めんなってね。」
「プッ!アハハハハハハハハハ!さすがはルナだ!!王家の目の前で反逆の歌を歌うのか?最高に頭がイカれてるな!」
「こんなこと続けているといつか痛い目に遭うよっていう注意喚起だから。寧ろ優しさだよ?」
「反逆の歌を優しさだと言い張るのは世間的には認められないと思うけど。」
「そんなこと気にしてロックが出来るわけないじゃん。私は私の気持ちを歌う。世間一般の常識なんて考えて曲なんか作らないわよ。」
「そうだな。その新曲は聞かせてくれるのか?」
「まだ練習不足だから。ライブ終わりに完成系の新曲をここで披露するよ。」
「楽しみだな。」
私はライトの屋敷に1週間通い、新曲の練習をした
トラとサムとも久しぶりに会って一緒に練習をした
ライブは5曲あり、私は最後のトリの曲を担当する
新曲の楽譜をみんなに渡して練習をする
アース音楽団の時はいつも喧嘩ばかりしていたけれど
ライトのバンドはいつも和やかな雰囲気だ
ステージに上がると最高にロックでかっこいいのに
この仲の良さが波長のあった音を生み出しているのだなぁと感心する
そしていよいよ迎えたライブ当日
ステージはマリーン噴水広場
1度目の人生でサテライト様が処刑された場所
私が10年時を戻した場所だ
こんなところでライブをすることになるなんて
運命的なものを感じるな
「緊張しているのかい?」
とライトに言われる
「この場所は私の始まりの場所。とても…とても特別な場所。だからここでライブが出来て本当に嬉しい。ありがとう。ライト。」
「この場所でライブすることはたまたまだけどね。」
「絶対成功させるから。私に任せて。」
「弟子にそんなことを言われるようになるなんてね。」
「私は今日天下を取る。伝説のライブにする。」
「かっこいいな。このライブが終わったらルナのファン1号だと自慢して回るよ。第1号の証のハンカチを覚えているかい?」
「うん。懐かしい。」
「プレミア付きにさせろよ。」
「国宝にさせてあげるよ。」
遂にライブが始まった
ライト達がマリーン噴水広場のステージで歌っている
この2年間でまたファンが増えたようで観客は見えなくなるまで埋まっている
でも大丈夫
アース音楽団もいつもこれぐらい人を集めていた
先程の緊張感はなく心は落ち着いている
ここの観客たちはライトのバンドを見に来ているので
私の存在はアウェイだ
しかも万人受けするような曲ではない
でも…自信がある
観客全員を虜に出来ると
早く…早く歌いたい演奏したい
いつもより力が沸いてきている気がする
この場所は私にとってパワースポットなのかもしれない
いよいよ私の出番になりステージに上がる
「皆さん。お久しぶりです。ルナです。」
「2年ぶりに帰ってきました。」
「2年間、私は音楽の武者修行の旅に出ていました。アース音楽団という音楽団で活動していたのです。」
「そこで私は…作曲の才能を認めて貰えました。」
「ステージに立つなら作曲を続けろと言われたのです。」
「作曲することは…とても難しくて苦戦しました。」
「でも…私の作る曲を仲間が喜んで弾いてくれる姿は嬉しかった。」
「私の曲をいい曲だと言ってくれる観客のみんなが大好きだった。」
「だから…私は曲を書き続けた。」
「私の気持ちを全てぶつけて書いた。」
「嬉しさも楽しさも辛さも理不尽さも全て。」
「私の気持ちを作曲した。」
「今から歌う曲は…ここにはもう帰って来れないから私の遺作のようなものです。」
「みんなは幸せなのでしょうね。」
「王家に守られて。」
「大事に大事にされて。」
「羨ましい。」
「この世界で日常を暮らせることが羨ましい。」
「私はきっと何度やり直しても不可能だ。」
「怯えて逃げ続けることも。」
「大事な人と敵対することも。」
「私は嫌だ。」
「こんな世界くそくらえだ。」
「でも…それでも…この世界には大事な人達がいる。」
「この世界を愛している。」
「どっちも私の本音。」
「この世界がいつまでも続けばいいとも思うし。」
「全部全部崩壊してしまえばいいとも思ってる。」
「…冗談です。」
「でも…覚えていてください。」
「理不尽な思いをして苦しんでいる人がいる。」
「その人達の言葉を聞かないなら。」
「この王家は崩壊する。」
「何年も迫害された一族がいる。」
「彼女達に真摯に向き合ってあげてください。」
「彼女達を舐めていると…寝首をかかれますよ。」
「ゆめゆめ忘れないでくださいね。」
「物騒な前置きになってしまい申し訳ございません。」
「では私のファイナルライブ。」
「魂込めて歌います。」
私は合図をして歌う
この世界の理不尽さを
この世界の愛を
全て全てこの曲に残した
私がいなくなっても
私の思考は
私の魂は
私の曲は
この世界に永久に残るように
私の全てをここに置いていくように
私の全てをここにいるみんなに託すように
全てを歌い終えて私は大汗をかきながら拳を上に上げた
鼓膜が破れそうな大歓声がマリーン噴水広場に鳴り響く
私は伝説として生きていけるだろう
ライブは大成功で終えた