第106話 四面楚歌
植物館デートで確信したことは
アーマーとグレイが私がアーマーのことを本当に好きかを疑っているということ
アーマーとグレイの2人が結託して
私がいつか別れようとしていることを阻止しようとしていること
私の別れる理由は“このままアーマーが一緒に旅をするとグリード国は戦争に敗れて多くの人間が死ぬ”というにわかには信じられない主張だ
グレイに説明しても納得させることは出来ないだろう
しかしグレイもアーマーの味方につけるなんて…
アーマーはグリード家で人心掌握の術でも習っていたのだろうか
グレイまでアーマーの味方になるんだったら
私の立場はまさに四面楚歌だ
このままではいけない
グレイには私に夢中になってもらいたいのに
私の味方でいてほしいのに
最近は魔法の修行だとかでグレイほアーマーと一緒にいる時間が多いし
さらにはアーマーがベースの練習に付き合ってあげていてグレイがとても喜んでいる姿も見てしまった
確実に負けている
完全にグレイはアーマーに懐いている…!!
アーマーの野郎め…魔法使えたり、ベースも少しやっただけで上手く弾けたり…
卑怯なんだよ!!
私だって魔法教えたり、ベース教えたり出来たらやってたもん!!
出来ないけどさぁ!!
でも私にはとっておきの武器がある
そう!!作曲だ!!
アーマーに気持ちよくベースを弾いて欲しいとは願いを込めて作った新曲
この楽譜をグレイに渡したら
私にイチコロになるに違いない
“ルナお母様すごーい♡てんさ〜い♡”
と褒め称えてくれるに違いない
私はグレイが私の新曲を大絶賛して褒めてくれる様子を想像してニヤニヤする
早くこの楽譜をグレイに渡したいなぁ
きっと大喜びするぞー!!
私はリリーと私の部屋にグレイを呼び出し
新曲の楽譜を渡す
「難しすぎます。」
とグレイが言う
「…え?」
「ベースを初めて1ヶ月で弾ける曲ではありません。」
「そ…そんなこと…ないよ?」
「なんですかこの激ムズのリズムは。」
「かっこいいでしょう?」
「玄人でも難しいと思いますけど、この曲。」
「そ…そうかな?」
「本当に僕を思って作りました?この曲。」
「え。」
「曲を作る時に僕の顔なんて1ミリも思い浮かんでないですよね?」
「そんなことないわよ!こんな風にベースが弾けたらグレイは気持ちいいだろうなーって思って作ったわよ!」
「そりゃあこんな難曲をかっこよく弾けたら気分いいでしょうね。僕には何年かかるかわかりませんけど。」
「アーマーはすぐ弾けるわよ?」
「あんな人間離れしてる超人と一緒にしないでくださいよ。」
「とにかく!私はこの曲をグレイの為に作ったの!そこに嘘偽りはないわ!!」
「そうだとしたらかなり無神経だと思いますが。僕のことを考えるならこんな鬼譜面にはしないと思いますよ。どうせベースを考えて曲を作るのが楽しくてルナお母様が考える1番かっこいいベースにしたのでしょう?」
「そうそう!この曲弾けたらかっこいいよ!」
「そうですね。3年後ぐらいになりそうですが。」
「初めから完璧に弾く必要なんてないからさ!私とセッションしない?ゆっくりでいいからさ!」
「いえ。この楽譜をゆっくりとはいえすぐに弾くなんて出来ません。またの機会にしてください。」
「私は気にしないよ。」
「僕は気にします。恥をかきたくないんです。」
「恥なんて…」
「ルナお母様が気にしなくで僕は気にしますので。まだまだ僕は弾けませんが新曲の楽譜ありがとうございました。いつかルナお母様と一緒に弾けることを楽しみにしていますよ。」
「う…うん。私も…」
グレイは私が渡した楽譜を持って部屋から出ていく
私はベッドに倒れ込み
自責の念にかられる
「私って無神経かな…?」
と私はリリーに尋ねる
「超無神経だよ。」
「そんなバカな!!」
「バカはルナでしょ。あんなにルナの新曲弾くのを楽しみにしていたグレイをあんな真顔にさせるなんて。可哀想なグレイ。」
「ちょっと…ベースかっこよくしただけだもん…」
「グレイの為の曲じゃなくて残念だっただろうなー。」
「グレイは絶対喜んでくれると思ったのに…!私にメロメロになって心をがっちり掴む予定だったのに!!」
「そんなことしなくてもグレイってルナにべったりじゃん。」
「アーマー取られちゃいそうなの!一大事なの!」
「あぁ…ご愁傷様。」
「私は曲を作るしか武器がないのに!これでダメなら私がグレイに好かれる要素なんてないんだけど!」
「諦めなー。アーマーに勝てるわけないっしょ。」
「くぅ…!!」
「グレイが取られたってルナにはアーマーがいるからいいじゃない。永遠に1番に愛してくれる人だよ。何が不満なの?」
「だってアーマーはいつか別れる存在だし…」
「それさ。絶対無理だから。アーマーがルナを手放すわけないじゃん。天地がひっくり返ってもありえないわよ。」
「ぐっ…」
「もう諦めなー。アーマーに勝てるわけないじゃん。」
「もう本当に味方いない!!私のことを誰か応援してよ!!」
「無駄な足掻き。」
「私が本気で抵抗すれば諦めてくれるかもしれないじゃん!!」
「ルナが本気で抵抗したら監禁鬱エンドだよ。」
「…。」
「諦めなー。」
「やだやだやだやだやだーーーー!!!」
子供のように癇癪を起こして
ベッドの上でジタバタしながら私は言う