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第十話 プレゼント

屋敷に戻り、リビングで家族揃って食事をした。昨日、髪を切った理由を王様と妃様に問いただされたけど、髪が邪魔だっただけという理由で押し切った。人に世話をされるのが嫌で、癇癪起こして髪を切ったなんて恥ずかしくて言えなかった。それに髪を切った時にアーマーに泣かれてしまったから罪悪感が…この話題はもうしたくない。髪切るだけでこんなに大騒動になるなんて思わなかった。孤児院では自分で髪を切る子も多かったし。

 「私は今日何をすればいいんでしょうか?」

 「昨日来たばかりだからね。まだルナがやることは決まってないんだよ。暫くは屋敷の中を慣れる為に歩き回って過ごして欲しい。庭園や図書館も自由に使っていいよ。」

 王様が答える。

 「本当ですか!?ありがとうございます!」

 「図書館に絵本も増やした方がいいかな。勉学や剣術に興味があるならルナも習うか?」

 「え!!本当ですか?やりたい!やってみたいです!!」

 「じゃあルナ専用の講師も用意しないとな。」

 まさか教育までしてくれるなんて…十二歳で自由になった後、働く時に役に立つことになりそう!孤児院では女の子は家事しか出来なかったから、働く先はほとんどメイドだった。他の職に就くことは出来なかったけど、色々選べるようになるかもしれない!朝食を食べ終わった後、王様と妃様は仕事へ戻り、アーマーは剣の稽古へ行った。私は案内された庭園へ鼻歌を歌いながらスキップをして移動していた。そして…とても珍しい人を見つけた。私は一直線に走って抱きつく。

 「クラウドお兄ちゃん〜!!」

 「わぁ!?」

 この人はクラウドお兄ちゃん。私達の孤児院の卒業生で、唯一王家へ就職した伝説の男だ。とても優秀でイケメンでかっこいい。

 「本当に養子に引き取られたのルナだったんだ…。」

 「びっくりした?」

 「心臓が飛び出る程びっくりしたよ。」

 「えへへー。」

 「ルナ昨日から飛び降りたり、髪切ったりして暴れたんだろう?大丈夫なのか?」

 「そんなこと知ってるの!?」

 「当たり前だろ。昨日は俺がこの屋敷に来てから一番忙しかったし、騒がしかったし、大変だったんだから。」

 「ごめんなさい…。」

 「ここの王家の人達はみんな優しいし、怖がることはないよ。何かあったら俺もいるからいつでも声を掛けてよ。」

 この抱擁力。優しさ。クラウドお兄ちゃんからマイナスイオンが出ているかのような癒しのパワー。

 「じゃあ毎日会いに来てもいい?」

 「いいよ。いつでも会いに来なよ。俺もルナに会えたら嬉しいからさ。」

 「えへへ〜だーいすき!」

 「よしよし。」

 そう言って頭を撫でてくれた。あぁ〜ずっとこうしていたい…。

 「そうだ!アーマーっていつも楽しくなさそうにしてる?」

 「そうだね…俺がここに来たのは一年前だけど、楽しそうな様子を見たことは一度もないかな。でもさすがグリード家の長男だよ。勉学も剣術もとても優秀なんだ。この国は安泰だね。」

 「アーマーは毎日が退屈だから私を養子にしたんだって。」

 「そうなんだ。ルナの責任重大だね。アーマー様はとても優秀だけど、人形のようだったからね。ルナが情緒を育ててあげてね。」

 「情緒って?」

 「心ってこと。楽しいときに心から笑えるような無邪気さや、辛いことがあっても乗り越えられる心の強さをね。」

 「難しいなぁ。」

 「目先の欲に溺れてはダメだよ。甘い誘惑に負けてはダメ。誘惑に負けて行動することが今後の人生の恥になるんだよ。自分の力を信じて努力することが大事なんだ。」

 胸が痛い。ほぼ思いつきで昨日は行動してしまった。クラウドお兄ちゃんの説教は優しいけど胸にくる…

 「ごめんなさい…。」

 「別に昨日のルナのことを言ってるわけじゃないよ?今後のルナを心配しているんだ。ルナは遊びに来たんじゃなくて、アーマー様の心を育てに来たんだ。よく考えて行動するように。」

 「うぅ〜。」

 「フフフッ。思ったより元気そうでよかった。飛び降りるほど嫌がってたからもっと元気ないと思ってたからさ。」

 「お騒がせしました…。」

 「アーマー様の為に頑張ってね。」

 「あのね!何かいいアイディアくれる?アーマーを喜ばせたいんだけど何かいい方法はないかな?」

 「おぉー。意外とちゃんと考えてる。」

 「昨日の私とは違うのだよ。」

 「ベタだけどプレゼントはどう?」

 「おぉ!さすがクラウドお兄ちゃんいいアイディアだ!私は一発芸しか思いつかなかったよ!」

 「それは相談してくれてよかったです。」

 「何プレゼントしたらいいかな?」

 「ここから先は有料です。」

 「ケチ!」

 「ごめんごめん笑。俺もそろそろ仕事に戻らないといけないからさ。ルナが一生懸命考えたプレゼントならなんでも喜ぶと思うよ。」

 「ホントかなー?」

 「じゃあね。頑張ってね。ルナ。」

 去り際にいい香りがする。イケメンって香りまでイケメンなんだな。

 「あの方はお知り合いですか?」

 ガリバーが尋ねる。

 「同じ孤児院出身なの。」

 「凄いですね。孤児院から王家へ入るなんて。」

 「そうなの〜。私達孤児院のみんなの自慢だったんだから。」

 庭園には綺麗な花がたくさん咲いていた。庭園の花を見ているとふとプレゼントを思いついた。

 「ねぇ。ここのお花って摘んでもいいのかな?」

 「構わないですよ。」

 「この白い花ならやったことがあるから出来ると思う。」

 私は花を摘み、花冠を作っていく。

 「シロツメクサですね。贈り物にもよく使われる花ですから喜ばれると思いますよ。」

「久しぶりに作るから難しい…。」

 手先は器用な方ではない。少し歪な形にはなってしまったが、なんとか完成させることができた。

 「よし!出来たー!!アーマーに渡しにいこう!」

 「今、アーマー様は訓練所にいるはずです。」

 ガリバーと一緒に訓練所に移動する。訓練所ではアーマーが剣の訓練をしていた。アーマーはまだ九才なのに、王の騎士団と同じ訓練を受けていた。今の年齢で騎士団と同等の実力があるということだ。凄すぎる。気づかれないようにガリバーと覗いていたら

 「そこにいるのは誰だ?」

 とアーマーに気づかれてしまった。

 「えへへ。ごめんね。訓練中なのに。」

 「ルナ?どうしたの?訓練は今終わったところだから全然大丈夫だよ。」

 私はさっき作った花冠をアーマーの頭に乗せた。

 「これは…?」

 「アーマーにプレゼント!」

 アーマーの顔に喜びが満ちていた。私は抱きしめられて

 「ありがとう。一生大事にするよ。」

 「お花はすぐ枯れちゃうよ?」

 「枯れても大事にする。」

 「喜んでくれてよかった〜。私ね。アーマーに喜んで欲しいなぁって思いながら花冠作ったの。だからアーマーが喜んでくれて嬉しい。」

 「ありがとう。大好きだよ。ルナ。」

 「私も大好きだよ。アーマー!このお花シロツメクサって言うんだけど贈り物とかにもよく使われてるみたいだから、きっといい花言葉だと思うよ!」

 「そうなんだ。後で調べてみるね。楽しみだよ。」

 「うん!じゃあまたお昼ご飯の時に会おうね!」

 そう言って訓練所から立ち去った。

 「はぁ〜。緊張した〜。喜んでくれてよかった〜。」

 「……そうですね。驚きました。アーマー様が喜ぶ姿は初めて見たので。」

 「え?ガリバーってそんなに最近雇われたの?」

 「俺はアーマー様が生まれた時からここの騎士でしたよ。」

 「じゃあ誕生日会とか喜ぶイベントはたくさんあるじゃない。」

 「誕生日会も王家では他の貴族を呼んで毎回盛大にパーティをするんです。アーマー様は仕事と変わらない行事だったと思ういます。」

 「そうなんだ…家族で出掛けた時とかは?」

 「王家は忙しいので一度もないですね。」

 「毎日勉強と訓練してるの?」

 「はい。」

 そんなの毎日退屈になるに決まってるじゃん。私が本当の六歳でもわかることなのになんでそんな毎日教育させるんだろう。

 「つまんなさそう。」

 「逃げないでくださいよ。」

 「今そんな話してないじゃん!」

 「申し訳ございません。隙を見て逃げ出そうとしそうなので。」

 王様にアーマーと一緒に遊べる時間が出来るように頼んでみよう。屋敷内を歩いて部屋の場所等を教えて貰った。昼食は王様とお妃様はいなかった。どうやら家族が全員揃って食事をするのは朝食だけのようだ。王様と妃様は忙しいのだろう。私はアーマーの時間に合わせて一緒に食事を取るようだ。今日の昼食も美味しい。今日、夕食作る時に見学させて貰おうかな。

 「ルナ。プレゼントありがとう。俺からもお礼のプレゼントを用意したんだ。昼食が終わったら、俺の部屋に来てくれる?」

 「そうなの?楽しみだなぁ。」

 まさかお返しが貰えるなんて思ってなかった。アーマーは何のプレゼントを用意したんだろう?

昼食が終わったので、私達はアーマーの部屋へと向かった。アーマーがプレゼントを私に渡してくれた。

 「喜んでくれるといいけれど。」

 「嬉しい!なんだろう?」

 アーマーに渡されたのは小箱だった。水色の包装紙で丁寧に包装されており、私はそれをドキドキしながら開けた。中にはキラキラと光る水色の宝石のブローチが入っていた。

 「これは……?」

 「パライバトルマリンという宝石だよ。とても希少が高くて美しい宝石なんだ。ルナによく似合うと思って。」

 よくわからないけど、とても高価な物だということはわかる。凄く嬉しいけど…花冠のお礼で貰う物じゃないよね?

どのように返事をしたらいいのか分からず迷っていた時、クラウドお兄ちゃんの言葉を思い出す。

 

 “目先の欲に溺れてはダメ。ルナはアーマー様の心を育てに来たんだ。よく考えて行動するように。“

 

 意を決して私は答える。

 「受け取れないよ。」

 アーマーがとても驚く。周りにいる使用人達もみんな驚いていた。

 「どうして?気に入らなかった?水色が嫌いなの?」

 「水色が嫌いでも宝石が嫌いでもないけど、これは受け取れない。」

 「なんで?希少性が高くてとても価値が高いものなんだ!これよりも価値が高くていいプレゼントなんて他にないはずだよ?何がダメなんだよ!」

 「これより価値が高くていいプレゼントがないってそれ本当?」

 「あぁ!これ以上の代物はないよ!」

 「じゃあさっき私がプレゼントした花冠と交換してよ。」

 「え……。」

 「どうしたの?この宝石よりも価値が高くていいプレゼントはないはずでしょう?じゃあさっきの花冠と交換出来るはずだよ。」

 「……いやだ。交換したくない。」

 「……その宝石の価値は高いのかもしれない。でも…物の価値なんて人によって違うの。お金の価値じゃなくて、アーマーの思いがあるプレゼントの方が私には価値が高いんだよ。プレゼントを貰えるって聞いてとても嬉しかった。だからもう一度用意してくれる?遅くなってもいいからさ。アーマーが一生懸命考えて用意してくれたプレゼントならとても嬉しいから。」

 じゃあねと言い、私はアーマーの部屋をガリバーと共に出る。

 「ハァーーーー。これであってたかなー?」

 「ご立派だったと思いますよ。アーマー様も今は落ち込んでいるでしょうが、きっと理解してくれるはずです。」

 「そうだといいけど……普通にトラウマになったらどうしよう〜。」

 「それは…まぁ…。初めてのプレゼントが受け取り拒否ですからね…。」

 「ゔぅーーー。こわいよぉ。本当に責任重大じゃん。」

 「人形のようなアーマー様よりは今のアーマー様の方がいいですから。ルナ様はこの屋敷を支える大きな存在ですよ。自信持って下さい。」

 「ただ遊びにきただけだと思ってたのに…。」

 「ただ遊びに来ただけですよ?クラウドが勝手にルナ様に役割を課しただけじゃないですか。」

 「え!?」

 確かにクラウドお兄ちゃんからしか言われてない。クラウドお兄ちゃん責任重大なことさせないでよ。

 「やってしまったものは仕方ない。良い方に転がることをもう祈るしか出来ないからね。」

 「女性恐怖症になりませんように。」

 「縁起でもないこと言わないでよ!」

 あぁーーー。失敗だったかなぁ。ただ傷つけただけかもしれない。とりあえずクラウドお兄ちゃんに文句を言いに行こう。私はクラウドお兄ちゃんに文句を言いに行くと、笑われてよくやったと褒められた。もうこんなことしたくないと言ったけど、努力しない人生はルナの人生をダメにするよ?と脅されてしまった。クラウドお兄ちゃんはまた爽やかな香りを残して去って行った。結構厳しいこと言われてるはずなのにイケメンだから絆される。いつも話した後は癒される。面食いなのかも私。

 その後の夕食はアーマーと二人で食事したけど、会話もなく気まずかった。喜ばせようとしてたのに泣かせたり傷つけてばかりな気がする。

 「ルナ。夕食が終わったら、また部屋に来てくれる?」

 「は、はい…。」

 アーマーが明らかに落ち込んでいる。罪悪感が凄い…。次は何をプレゼントされても喜んで受け取ろう。こんな苦行をアーマーも私も続けることは出来ない。アーマーの部屋に着き、アーマーは自信がなさそうに私へのプレゼントを手にしていた。

 「こんなもので本当に喜んでくれるかわからないけど。」

 アーマーが手にしていたのはシロツメクサの花冠だった。私が作ったものとは違い、綺麗に整った形をした花冠。つまりあの花冠は私の為にアーマーが作ったものだ。

 嬉しかった。ものすごく。凄く傷ついたはずなのに、私の言ったことをちゃんと考えて用意してくれた私の為のプレゼント。宝石なんかより何百倍も価値のあるプレゼントだ。

 「頭に乗せてくれないの?」

 私がそう言うと、アーマーは私の頭に花冠を乗せる。

 「ありがとう!とっても嬉しい!!」

 私は満面な笑みで答える。アーマーは安心したかのようにゆっくりと微笑んだ。

 「シロツメクサの花言葉調べたんだ。とても素敵な意味だったよ。」

 「そうなんだ!なんだったの?」

 「花言葉は“私のものになって“」

 アーマーは満面の笑みでそう答える。その笑顔は今までみたどの顔よりも歓喜に満ちていて…少し怖かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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